研究課題/領域番号 |
16K14010
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 高分子合成 / 高分子構造・物性 / 機能性高分子 / 錯体触媒 / 酸化重合 |
研究実績の概要 |
ジフェニルジスルフィド (DPS) の融液から酸化重合により直鎖のポリフェニレンスルフィド (PPS) が得られたことを起点に、環境合致の酸化重合の特徴を最大限活かした高純度かつ高分子量のPPS合成法として確立することを目的として研究推進した。また、酸化重合で得られるPPS誘導体の高い硫黄含量と透明性を組み合わせ、耐熱性を併せ持った特徴ある高屈折率材料として確立することも目指した。これまで室温付近で溶解する溶媒が無いとされたPPSが予想に反してDPSの融液に溶解して重合した知見を手がかりに、従来資源価値が低いとされたDPSを高需要のエンプラPPSに直接変換する合成法として展開し、PPS誘導体を含めた可能性を幅広く検討した。 具体的には、DPS溶融条件下での重合に伴う消費酸素および副生水の量、生成PPSの収量および分子量の関係を明らかにし、分子量と反応進行度の相関を解明することによって、物質収支の全容を明らかにした。生長鎖のDPS融液に対する溶解度を把握し、PPSの溶解度パラメータを指標に助溶媒とも組み合わせ、析出なく高分子量体まで生長する条件を明確にした。触媒に用いる酸やバナジル錯体は、IV/V価バナジウムの酸化還元電位と配位子の置換活性に基づき、DPSの溶融条件で作動する候補を複数絞り込んだ。 次いで、反応温度、酸素圧 (オートクレーブを用いた加圧での爆発限界を把握)、触媒濃度など重合速度の支配因子を整理し、反応後期の融液粘度と併せ重合挙動を解明した。生成PPSの構造をIRにおけるベンゼン環H原子の面外変角振動ピーク、固体NMRに基づく対称性、X線回折、XPSなどから解明し、スルホキシドおよびスルホン等への酸化や架橋構造を含まない直鎖スルフィドを与える条件を明確にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度(初年度)の研究推進により、これまで酸化重合では到達不可能であった分子量2万以上の直鎖高重合度PPSが初めて得られた。また、ポリマーの基礎的な熱物性(ガラス転移点、融点、結晶化温度、融解熱量に基づく結晶化度など)と分子量の関係が明確になり、熱重量分析で求まる5%熱分解温度など耐熱性の尺度も併せ、既存PPSとの比較から酸化重合で得られるPPSの特徴を詳細に明らかにすることができた。 これらの成果を更に追究して、重合後期の反応液から含ハロ溶媒を一切用いることなくPPSを単離・精製する方法を見いだし、高い転化率で高純度のPPSを与えるプロセスとしてその原理を実証することにより、完全ハロゲンフリーPPSを創出することが可能となった (全ハロゲン含量は10 ppm以下)。 以上の成果をもとに、次年度以降に高純度の高屈折率材料へ展開するための手掛かりが当初計画以上に着実に集積されている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、重合機構のより詳細な解明に基づく超高分子量体 (目標値5万以上)の創製に挑戦する。これは、DPS融液において反応が均一系で進行することに基づき、既に手応えを得ている方法論の延長上に従来の最高値更新を狙うものである。 具体的には、擬似的なリビング性を有するとも見做すことのできる重合挙動に着目し、活性を維持した触媒量の低減と、モノマーの段階的添加により高分子量化を計る。生長反応に相当する芳香族求電子置換を行うスルホニウム活性種がポリマー側に存在し、モノマーが生長端に順次縮合するとの仮説を、詳細な構造解析、重合不活性なスルホニウム塩モデルの単離結晶解析、計算化学などを援用したHOMO準位と分布の描像から実証し、このような興味ある重合挙動の根拠を明らかにする。また、スルホニウム塩によるFriedel-Crafts反応の生成物と予想される配位過飽和スルファン中間体からのスルフィド生成過程を実証し、重合機構の全容を明らかにする。 さらに、重合活性なメチル基置換DPS類が高屈折率かつ完全非晶質の透明耐熱樹脂 (ガラス転移点160℃) を与えた予備成果に立脚し、高い分子屈折を与える置換基を選定し、結晶性の高いPPS鎖本来の分子間相互作用が非晶質誘導体でも自由体積を含めたポリマー分子の固有空間の低減に効くことを実証する。これにより、高い屈折率 (目標値nD >1.8) を達成し、超高屈折率の新しい透明樹脂としての可能性を明確にする。
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