ジフェニルジスルフィド (DPS) 融液からのポリフェニレンスルフィド (PPS) 新合成法の発見を起点に、超高純度 (10 ppm以下の完全ハロゲンフリー)の高特性PPS合成法として確立し、また、高硫黄含量と透明性を組み合わせ、耐熱性を併せ持った特徴ある超高屈折率材料を創出することを目指して研究展開した。下記に本年度の成果概要を記す。 (1) 重合機構の解明による高分子量体の創製:PPSの高分子量体 (Mw > 5万) を酸化重合で初めて合成した。具体的には、擬似的なリビング性を示す重合挙動に着目し、活性を維持した触媒量の低減と、モノマーの段階的添加により高分子量化を計った。生長反応に相当する芳香族求電子置換を行うスルホニウム活性種がポリマー側に存在し、モノマーが生長端に順次縮合するとの仮説を、NMRによる構造解析、重合不活性なスルホニウム塩モデルの検討、計算化学を援用したHOMO準位と分布の描像から実証し、擬似的リビング性の根拠を明らかにした。また、スルホニウム塩から生成することが予想される配位過飽和スルファン中間体からのスルフィド生成過程を明確にし、重合機構の全容を明らかにした。 (2) 超高屈折率透明樹脂の創出と機能開拓:重合活性なメチル基置換DPS類が高屈折率かつ完全非晶質の透明耐熱樹脂 (Tg = 160℃) を与えた予備成果に立脚し、高い分子屈折を与える置換基を原子屈折を指標に選定し、結晶性の高いPPS鎖本来の分子間相互作用が非晶質誘導体でも自由体積を含めたポリマー分子の固有空間の低減に効くことを実証した。これにより分子占有体積あたりの分極率を高め、高い屈折率 (1.8以上) を達成した。以上をもとに、耐熱性を備えた斬新な光学樹脂としての基礎的な性質を明らかにした。
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