研究実績の概要 |
1) テレケリックポリアセチレン誘導体の合成:フェニルアセチレンをRh触媒を用いて重合し,重合後に停止剤と活性末端を反応させることによってポリマー末端への置換基の導入を検討した。停止反応の進行を確認するために,得られたポリマーについて各種スペクトル測定を行った。4-シアノベンジルブロミドを停止剤に用いた場合,酢酸で重合を停止したポリマーには無いシアノ基に由来する吸収が確認され,停止剤が導入されていることが分かった。 2) テレケリックポリアリレンエチニレン誘導体の合成:D-ヒドロキシフェニルグリシンから合成したポリフェニレンエチニレン1と,D-ジヨードヒドロキシフェニルグリシンモノマーおよびp-ジエチニルベンゼンの薗頭-萩原カップリング反応により,末端にヨードフェニレン基およびエチニルフェニレン基を有するテレケリックポリマー2および3を単離した。さらに,2と1,6-ジエチニルピレン,3と1,4-ジブロモナフタレンの薗頭-萩原カップリング重合を上記と同様の条件で行い,ポリマー4および5を単離した。反応後,ポリマーの分子量が増大したことから,期待通り進行したことが示唆された。いずれのポリマーも正の励起子キラリティーに基づくコットン効果を示したことから,前駆体のポリマーと同様に,右巻きの折り畳みらせん構造を形成していると示唆された。4の発光は2に比べ21 nm長波長側に観測され,蛍光強度が16%増加していたことから,ピレンが主鎖に組み込まれたと考えられる。4の蛍光量子収率は21%であり,2よりも4%高かったことから,ピレンは蛍光量子収率の増大に寄与していることが示唆された。2と4の励起スペクトルの形状に顕著な差は認められず,ピレンの励起スペクトルとは明確な違いがあったことから,4はピレン環が共役系に組み込まれた主鎖由来の発光を示していると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
1) テレケリックポリマーの末端結合反応:テレケリックポリマーの重合反応,すなわち,高分子末端反応性基の結合反応を引き続き検討する。薗頭-萩原カップリング,ヘックカップリング,オレフィンメタセシスなどの,温和な条件でポリマー末端間を結合可能な遷移金属触媒反応を用いる。反応条件の最適化にあたっては,応募者らが以前報告しているノルボルネン誘導体のメタセシス開環重合(J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 10546)などの遷移金属触媒重合に関する知見を活用する。リンカー部分として,柔軟なメチレン鎖ならびに,剛直な立体配座をもつビナフチレン基などを検討し,テレケリックポリマー結合部の結合角,二面角を制御して,得られるテレケリックポリマーの重合体にさらなる高次構造を誘起する。 2) テレケリックポリマーの配列制御と網目構造の制御されたネットワーク状ポリマーの合成:テレケリックポリマーの濃厚溶液を調製し,液晶状に配列させる。この検討にあたっては,応募者が報告しているらせんポリアセチレンのコレステリック液晶形成(Macromolecules, 2007, 40, 7079など)に関する知見を活用する。配列したテレケリックポリマーの末端間のオレフィン重合,アセチレン重合を行い,ネットワーク状ポリマーの合成を試みる。テレケリックポリマーの分子量分布が広く,目的とするネットワーク状ポリマーの生成効率が低い場合には,分取HPLCにて分子量分画を実施する。 3) テレケリックポリマーの重合体の構造ならびに光・電気機能評価:原子間力,透過型電子顕微鏡,X線回折測定により固体構造を解析し,溶液中でのコンホメーションとの関連を解明する。フォト・エレクトロルミネッセンス特性,光導電性,ホール輸送性を測定する。
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