研究課題/領域番号 |
16K14012
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
珠玖 仁 東北大学, 工学研究科, 教授 (10361164)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | カーボンナノチューブ / 光硬化性ゲル / バイポーラ / 多項目分析 / 誘電泳動 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、バイポーラ電極(BPE)アレイデバイスをワイヤレスな次世代センシングシステム開発のプラットホームと位置付け、超小型・省電力・高感度な迅速・簡便スクリーニング系を構築する。種類の異なるタンパク質や核酸の生体分子および標準電極電位の異なるレドックスを任意の場所にパターニングする技術と組み合わせ、自律型の新規大規模多項目分析法を提案する。電気化学イメージングの研究蓄積を活用し、デバイスの局所における電位分布や、従来法では観測不能な局所電流分布のマッピングに挑戦することにより、理論的根拠に基づいた効率的なデバイスデザインに反映させる。 異なる製造法で作製された多層カーボンナノチューブMWCNTを入手し、CNTの親水化処理を検討した。ハイドロゲルの濃度、種類、電極デザイン、誘電泳動の条件(交流電圧の振幅および周波数)を変えることにより、水平および垂直方向にCNTを配列化する試みを実施した。 炭素微小電極にAuを析出させ、さらにチオール基とアビジン/ビオチン結合を介してグルコースオキシダーゼを固定化した。架橋剤の濃度比を最適化することにより、酵素固定化量を制御し、グルコースの添加に伴う電流応答の増加を確認した。 デバイスデザインの最適化に関する重要な研究項目として、CNTを垂直に配列化した垂直型BPE-CNTアレイデバイスの試作と詳細な特性評価を実施した。BPE長さ(x)を3 mm ~0.6 mmに抑え、発光計測の閾値電圧Etotを低下させ、省電力化するセルを作製した。光開始剤(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン)を添加するUVゲル化法に加え、熱ラジカル重合開始剤AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)による熱ゲル化に成功した。これによりUVを透過し得ない高濃度MWCNT分散液共存下でも、配列化MWCNT/ハイドロゲルシートの作製が可能となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
誘電泳動に基づきMWCNTを水平および垂直方向配列化しハイドロゲルに包埋することで多項目分析用のバイポーラ型のデバイスを作製することに成功した。しかし、走査型電子顕微鏡観察の結果から、交互くし型電極のエッジ部分にMWCNTが密集している様子が観測された。MWCNTアレイの方端で電気化学発光を誘起し、発光イメージングに基づき反応速度の均一性を可視化した。多項目分析のプラットホームを構築する為には、各反応サイトにおける反応条件の更なる均一性の担保が必要であることが分かった。 生体分子の固定化に関しては、当初は、ガラスキャピラリーにCNTを固定化して閉鎖型バイポーラ型の探針を作製し、CNTへの生体分子固定化、さらにCNT片端への生体分子固定化を実施する予定であった。現在までのところ、ピペット内壁に熱分解析出法により作製した炭素微小電極の系で酵素の固定化に成功した段階であり、抗体やDNAの固定化を検討する必要がる。酵素や生体分子の固定化に関して、走査型プローブ顕微用などを用いて、微細構造を評価する必要がある。 熱ラジカル重合開始剤AIBNによる熱ゲル化に成功した。これによりUVを透過しない高濃度MWCNT分散液共存下でも、配列化MWCNT/ハイドロゲルシートの作製が可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
クォーツ製ピペット内壁に熱分解析出法により作製した炭素微小電極の系で閉鎖型BPEを構築し、両端の異なる酸化還元反応と見かけ上のボルタモグラムの形状の変化から、BPEの両端で進行する反応の進行を制御・解析する。BPEに接触する溶液に含まれるレドックス種の種類を変えることにより、観測されるボルタモグラムの半波電位のシフトを解析する。 BPEアレイデバイスをフォトリソグラフィーにより作製し、各反応サイトにおける反応条件の均一性が担保された系において多項目分析を実施する。その結果を、配列化MWCNT/ハイドロゲルシートに基づくBPEアレイの結果と比較する。閉鎖型のBPEアレイデバイスを設計することにより、外部から印加する電圧Etotを低下させ、省電力化が期待できる。フォトリソグラフィーの技術を導入することにより、BPEアレイを構成する個々のBPE両端間には等しく均等に電圧ΔEelecを印加できる。 BPEの両端で進行する酸化・還元反応は共役しており、腐食電流と同様、BPEの導体内部を流れる正味の電流は外部から観測できない。しかし局部電池や孔腐などと類似の電気化学現象であることから、走査型電気化学顕微鏡SECMをはじめとする走査型プローブ顕微鏡SPMの技術が応用可能であると期待できる。 走査型電気化学顕微鏡SECMなどを用いて、酵素や生体分子を固定化したCNTを含む様々な電極基板の微細構造を評価し、多項目分析に必要な局所的・二次元的機能情報を取得する。走査型イオンコンダクタンス顕微鏡SICMにより、試料表面の局所的な電荷分布を取得する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
水平配列型のMWCNT/ハイドロゲルシートでは、走査型電子顕微鏡観察の結果から、交互くし型電極のエッジ部分にMWCNTが密集している様子が観測された。多項目分析のプラットホームを構築する為には、各反応サイトにおける反応条件の更なる均一性の担保が必要であることが分かった。垂直配向型のMWCNT/ハイドロゲルシートを閉鎖型BPEセルに挟み込んで電圧を印加した結果、電気化学発光が観測できなかった。これはMWCNTの導電性が不十分であることが原因であると考えられる。また、高濃度MWCNT分散液共存下でUVの透過率が著しく低下し、UV照射に基づく光架橋ゲル化反応の進行が不安定となった。そこで、光開始剤の替わりに熱ラジカル重合開始剤AIBNによる熱ゲル化を検討した。上記予想外の試行錯誤により、研究計画に6か月程度の遅延が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
BPEアレイデバイスをフォトリソグラフィーにより作製し、各反応サイトにおける反応条件の均一性が担保された系において多項目分析を実施する。閉鎖型のBPEアレイデバイスを設計することにより、省電力化および各反応サイトの独立性を保ち、異なるBPE間での交差反応を抑制できる。走査型プローブ顕微鏡技術の導入により、表面電荷や局部電池反応、多項目分析に必要な生体分子の分布について知見が得られると期待できる。平成29年の9月までには、自律型の新規大規模多項目分析デバイスを構築する。電気化学イメージングの研究蓄積を活用し、デバイスの局所における電位分布や、従来法では観測不能な局所電流分布のマッピングに挑戦することにより、理論的根拠に基づいた効率的なデバイスデザインに反映させる。
|