研究課題/領域番号 |
16K14014
|
研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
渋川 雅美 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (60148088)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 分配クロマトグラフィー / 界面水 / イオンスタッキング |
研究実績の概要 |
本研究は,主に親水性高分子からなる多孔質材料を充填したカラムを用いて,無機および有機イオンの高効率な濃縮分離と精製を可能にするシステムをイオン分配理論に基づいて設計構築し,それにより,水のみを溶媒として用いる簡単な操作でイオンを100倍以上濃縮するとともに,併せて電解質の高純度精製を可能にする方法を開発することを目的としている。 本年度は,純水で満たしたオクタデシルシリカ(ODS)カラムとヒドロキシメタクリレート樹脂カラムを用いて水溶液系分配クロマトグラフィーにおけるイオン濃縮現象がイオン分配理論で説明できるかどうかを検証するとともに,その結果に基づいて高度イオン濃縮システムの開発を行った。まず,ODSカラムに2種類の陰イオンのカリウム塩を含む水溶液を一定時間通液し,ついで純水を通液すると,混合電解質ゾーンの先端に保持係数の小さいイオンが,また後端に保持係数の大きなイオンが濃縮されて溶出することを見出した。その濃縮率とイオンの分配係数から,この現象はイオン分配における共存副イオン効果によるものであることが明らかになった。すなわち,イオンの分離と濃縮は充填剤表面に形成される界面水とバルク水とがイオンに対する親和性が異なることに起因する水性二相間分配によるものであることがわかった。さらに,ヒドロキシメタクリレート樹脂カラムでは,樹脂表面にわずかに存在する陽イオン交換基によるイオン排除が試料陰イオンに対して効果的に作用し,混合電解質ゾーン後端でのイオン濃縮が著しく高められることがわかった。これらの結果に基づいて,試料溶液に所定量の電解質を溶解し,それをカラムに注入して純水で溶出するという簡単な操作で試料溶液中の微量イオンを数十倍から数百倍濃縮できるシステムを構築することに成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,疎水性充填剤としてオクタデシルシリカ,親水性充填剤としてヒドロキシメタクリレート樹脂を選択し,これらを充填したカラムに水を移動相として流す系で無機陰イオンの保持体積を計測するとともに,イオン濃縮現象を系統的に観測し,これがイオン分配理論で説明できることを明らかにした。さらに分配とイオン排除を組み合わせることによって,当初の目標通りの100倍以上のイオン濃縮を可能にするシステムの開発に成功した。これらの成果は当初の目標をほぼ達成していると判断される。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度の研究成果に基づいて,翌年度は以下の3つのクロマトグラフィーシステムの開発を行い,それぞれ実試料への適用を試みる計画である。 (1)イオン分配スタッキング濃縮分離システムの開発:スタッキング濃縮に引き続いてイオンの分離を可能にするイオン分配スタッキング濃縮分離システムを構築する。まず,副イオンゾーンと各試料イオンゾーンのpHがカラム充填剤の実効イオン交換容量が0と近似できる領域にすることができる電解質を試料溶液に添加する(カルボキシ基を有する高分子ゲルの場合,塩酸などの強酸を使用する),あるいは固定イオンと強く結合する対イオンによりあらかじめ処理することにより,充填剤の実効表面電荷を0とする。濃縮ゾーン(副イオンゾーン)での濃縮率と分離ゾーン(純水ゾーン)における希釈率および分離度をイオン分配理論に基づいてシミュレーションし,実験結果と比較して濃縮および分離の性能を評価する。 (2)電解質精製システムの開発:ハロゲン化アルカリなどの強電解質を対象として,電解質ゾーンからの微量不純物除去効果を調べ,電解質の精製条件の最適化を図る。 (3)イオン分配-イオン排除スタッキング濃縮/イオンクロマトグラフィー分析法の開発:二次元HPLCシステムを構築し,イオンスタッキング濃縮カラムとイオンクロマトグラフを接続して分析システムを構成する。これを,試薬として市販されている電解質中の微量不純物イオンの分析や,雨水,水道水などに含有されるイオンの分析に応用して,その有用性を評価する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画には,分配とイオン排除効果を組み合わせたイオン濃縮システムにおいて,樹脂マトリクス及びイオン交換容量の異なる親水性樹脂を用いて,マトリクスの違いによる分配効果,およびイオン交換容量の違いによる最大濃縮濃度の変化を検討する研究が含まれていたが,これを実施することができなかった。このための充填剤の購入費が次年度使用額に相当する。
|
次年度使用額の使用計画 |
上記の研究を,当初計画の「イオン分配スタッキング濃縮分離システムの開発」,「電解質生成システムの開発」,および「イオン分配-イオン排除スタッキング濃縮/イオンクロマトグラフィー分析法の開発」と併せて翌年度に実施する計画である。
|