本研究は,親水性高分子ゲルからなる多孔質材料を充填したカラムを用いて,イオンの高効率な濃縮分離を可能にするシステムをイオン分配理論に基づいて設計構築し,それにより,水のみを溶媒として用いる簡単な操作でイオンを濃縮するとともに,試料中の微量イオンの定量分析システムを開発することを目的としている。 本年度は昨年度において得られた研究成果に基づいて,分配-イオン排除スタッキング濃縮/イオンクロマトグラフィー分析法の開発を行い,水および塩試料中の微量陰イオンの定量を行った。ヒドロキシメタクリレート樹脂は,その表面に微量の陽イオン交換基を有しており,試料水溶液中の陰イオンは共存電解質濃度が十分高い場合は(50 mM以上)樹脂内部の水相に分配するが,電解質濃度が低いとイオン排除効果を受けて樹脂外部に排除される。したがって,目的の陰イオンよりもヒドロキシメタクリレート樹脂内水相への分配係数が小さい陰イオンの塩を試料溶液に添加し,これをカラムに注入して純水で溶出するという操作で,共存塩ゾーンの後端に目的陰イオンを数十倍から数百倍濃縮することが可能になる。そこで,この濃縮ゾーンを切り取ってUVまたは電気伝導度検出イオンクロマトグラフィーに導く二次元LCシステムを構築した。50倍希釈した水道水試料に0.1 Mとなるよう硫酸ナトリウムを添加した溶液を用いて,構築した陰イオンの高感度分離分析システムの精度と精確さを硝酸イオンの定量について評価したところ,非常に良好な結果が得られた。さらにこの方法を塩化ナトリウムおよび硫酸ナトリウムの一級および特級試薬に含まれる微量不純物イオンの定量に応用し,亜硝酸イオンと硝酸イオンを定量することに成功した。両イオンの検出限界は,それぞれ0.02 ppbおよび0.04 ppbと非常に低く,きわめて高感度な分析法であることが立証された。
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