研究課題/領域番号 |
16K14015
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
藤浪 眞紀 千葉大学, 大学院工学研究科, 教授 (50311436)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 格子欠陥 / 放射線 / 量子ビーム / 二次元分析 / 陽電子 |
研究実績の概要 |
これまでα鉄の水素脆化材において特徴的な欠陥は空孔クラスター形成であることを陽電子消滅法で実証してきたが,低温TDSに代表される他の欠陥分析手法との結果とは必ずしも対応していなかった。これは,空孔クラスター形成が実際に水素脆化した際に生じていたものを反映した結果ではなく,測定までの室温時効により生じた欠陥であるという可能性を考慮し,今年度は温度可変(170 Kから520 K)陽電子消滅測定を実施した。その結果,α鉄を水素チャージして低速で延伸した水素脆化破断材では空孔クラスターへの成長はほとんどみられず,単空孔が動ける温度以上で初めて空孔クラスターへの成長が認められた。一方,高速で延伸した水素脆化しなかったα鉄では,当初より空孔クラスターが形成されていた。この結果は,両試料とも水素により空孔形成が促進はされるが,水素脆化しない場合にはそのまま空孔クラスター形成まで進行するが,水素脆化する場合には拡散・凝集できない水素-空孔複合体を形成していることを意味していると考察した。さらに,低温TDSの高温(100℃)ピークの起源は水素-空孔複合体であり,それが水素脆化因子であることを示していると考えている。また,同様な結果がSUS304やSUS316Lでもみられγ相自体も水素脆化し,その水素脆化支配因子は水素-空孔複合体であると考察している。 水素脆化における欠陥測定においては,欠陥が水素脱離や空孔可動により容易に変化する可能性があることを考慮し,実際の機械特性試験の状態を担保した実験条件で行うことが重要であることを指摘したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
水素脆化に関しては,これまで空孔クラスター起因の報告がなされていた。一方,昇温脱離分析によって示された欠陥挙動と空孔クラスター挙動が合致しないことから,欠陥を凍結させる手法を考案し,空孔-水素複合欠陥の間接的な証拠を示すことができた。この成果は,米国ゴードン会議での招待講演や日本鉄鋼協会でのポスター賞の受賞などで高く評価された。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は基本原理の検証の後,2から3桁強度の高い加速器ベースの陽電子源に試作機を接続し,空間分解能の向上への挑戦そして実用材料への展開を図る。 申請者がチームリーダーを務めていたJST先端計測・分析機器開発事業「透過型陽電子顕微鏡」プロジェクトではKEKに加速器ベースの陽電子マイクロビームラインがすでに設置されており,ラボよりも2から3桁ほど初期ビーム強度が高い。それにより拡大率を向上することができ,空間分解能の向上が期待できる。KEKの担当者の兵頭俊夫特別教授らの協力を得ながら,KEKの高強度陽電子ビームラインに試作機を接続し,空間分解能数十nmの実現に挑戦する。 空間分解能が数十nmに達したならば,半導体デバイスルの局所原子空孔分析への適用が可能となる。LOCOS(local oxidation of silicon)構造において,SiO2膜先端でのひずみ場誘起の原子空孔検出,CuやAl等の微細配線におけるエレクトロマイグレーション誘起の原子空孔検出等を行う。また水素クリーン化社会における材料基盤を確実にするには,金属材料の水素脆化の問題を解決する必要がある。その原因として水素による原子空孔クラスター形成促進が明らかになっているが,その機構解明には破断部近傍での空孔分布計測が重要である。それらの材料課題に対して,局所原子空孔挙動を明らかにし,再放出陽電子顕微鏡が材料・プロセス設計に有効な知見を与える分析手法であることを示す。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入に必要な仕様を,H28年度実施の実験結果により決めることになっていたが,その実験結果の精査に時間を要したため,物品の納期が平成28年度納品に間に合わなかったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに仕様は決定しているため,至急に仕様に適合する物品購入の手配を行い,研究に活用する予定である。
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