研究課題/領域番号 |
16K14021
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
財津 慎一 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60423521)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 共振器増強分光 / ラマン散乱 / ラマン分光 / モード同期レーザー |
研究実績の概要 |
低濃度ラマン活性分子種のリアルタイム定量測定を可能とする新しい超高感度ガス分析手法として、共振器増強インパルシブ励起コヒーレントラマン散乱分光法の開発に取り組んだ。初年度は以下の3項目の実験を実施した。(1)1GHz繰り返しモード同期レーザーのリング型広帯域共振器へのカップリング、(2)誤差信号の取得とフィードバック制御による共振器安定化、(3)共振器増強モード同期レーザー光によるラマン散乱光の発生とその観測。以下にそれぞれで得られた実績の概要について示す。 (1)波長730~850nmに渡って99.7%以上の反射率を有する低分散高反射鏡4枚を配置したリング型共振器に、1GHz繰り返しモード同期レーザー(中心波長:810nm、スペクトル半値全幅:25nm)を結合した。入射パワー600mWに対して、1つの出力鏡より最大で20mWの共振器透過パワーを得た。また、水素充填共振器透過スペクトル帯域の圧力依存性を評価した所、水素圧5気圧で透過帯域が最大となり、入射光スペクトルとほぼ同程度の帯域を得た。これは、共振器の分散特性とほぼ一致し、共振器分散が補償された水素圧で最大の帯域となっていると考えられる。 (2)リング型共振器透過光からHansch-Couillaud法によって誤差信号を取得し、その信号を共振器長へフィードバックすることによって共振状態を一定時間安定化した。 (3)モード同期レーザー光を、カットオフ周波数825nmのショートパスフィルタを透過させた後に上述した水素充填共振器へ入射した。その共振器透過光をカットオフ周波数825nmのロングパスフィルタを透過させた後に、ファイバー入力型マルチチャネル分光器で観測した。中心波長からオルソ水素の回転ラマンシフト周波数(587cm-1)に対応する850nm付近で、ラマン散乱に起因する信号の観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画での平成28年度終了時点での目標は(1)1GHz繰り返しモード同期レーザーのリング型広帯域共振器へのカップリング、(2)誤差信号の取得とフィードバック制御による共振器安定化であった。しかし、実際には研究実績の概要に示したように、(3)共振器増強モード同期レーザー光によるラマン散乱光の発生とその観測まで達成した。そのため、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は前年度の成果を受けて、当初予定通りに研究提案時に設定した以下の2つの研究課題に取り組む。 1.コヒーレント分子運動のプローブとラマン信号の検出 ラマン活性分子が充填された共振器に対して、励起用広帯域レーザー光に加えて、狭線幅レーザー光(プローブ光)を結合する。このプローブ光に対して変調分光法を応用したPound-Drever-Hall法によって誤差信号を取得し、共振器モードの1本に安定化する。ラマン活性分子のコヒーレンスがρ=10の-5乗~10の-4乗程度励起されている場合、このプローブ光と分子のラマン相互作用(ラマン共鳴四光波混合)によって、ストークス光および反ストークス光が発生する。インパルシブ励起によっても同様の結果が得られるかを調べるために、まずはラマンゲインの高いオルソ水素で587 cm-1離れた位置に発生する反ストークス光を光スペクトラムアナライザによって観測する。ラマン共鳴四光波混合が観測されるためには、十分な分子コヒーレンスが励起されると同時に、位相整合条件が満足されていなければならない。そのために、共振器総分散をプローブ光波長においてゼロとし、共振器内を伝搬する光波の位相関係を保持させる。 2.水素同位体分子の選択的リアルタイム検出の実現 分析対象となる微量(≦ppm)のラマン活性分子を共振器チャンバーに導入し、上記1の方法によって発生するラマン光を観測する。ここで、共振器チャンバー内に、励起レーザーと相互作用のない希ガス(Xe等)を導入することによって、軽水素分子の濃度を変化させることなく、共振器分散だけを制御し、位相整合条件を満たしたラマン過程が励起される条件を見出す。分子濃度を変化させながらラマン信号の強度を計測し、この新分析手法の定量性と、検出されたラマン信号の信号/ノイズ比より、水素および水素同位体分子の検出限界を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、平成28年度中に導入を予定していたプローブ光用光学系を、研究の進展状況を鑑みて、平成29年度に導入することが最適であると判断した。そのための費用を繰越したため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上記プローブ光用光学系を平成29年度開始より直ちに導入を検討する。また、平成28年度の成果より、最適な共振器鏡への変更が有効な手段であるとの結果が得られたので、新規共振器用高反射鏡の導入も検討する。
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