研究実績の概要 |
低濃度ラマン活性分子種のリアルタイム定量測定を可能とする新しい超高感度ガス分析手法として、共振器増強インパルシブ励起コヒ ーレントラマン散乱分光法の開発に取り組んだ。最終年度は以下の2項目の実験を実施した。(1)プローブ用半導体レーザー安定用光学系の構築と周波数安定化、(2)水素充填共振器からの出射光スペクトルに含まれるラマン光成分の観測。以下にそれぞれで得られた実績の概要について示す。 (1) 励起された気体分子をプローブするための、半導体レーザーの周波数を安定化する光学系を新たに構築し、フィードバック制御によるレーザー周波数制御を実現した。セシウム(Cs)原子の飽和吸収分法によって得られた信号を復調し、この吸収線に対するレーザー周波数のずれを誤差信号として取得した。半導体レーザーの周波数は、Cs原子の非常に安定で強い共鳴線(D2線: 852.1 nm)に安定化した。周波数ロック後の周波数の度数分布の標準偏差は2σは112.8 KHzであった。制御された半導体レーザー周波数は、本研究の目的を達成するためのプローブ光として十分な性能を達成した。 (2) 水素充填共振器出力の長波長成分の透過スペクトルでは、840 nm, 855 nm, 880 nm付近にピークが見られた。880 nm付近のピークは入射スペクトル成分であると考えられるが、840 nm付近のピークはオルソ水素の回転運動周期と一致しており、ピークが顕著に見られているためラマン光であると考えられる。また、855 nm付近のピークについては2次ストークス光の波長に近い値を示している。しかし、オルソ水素 : パラ水素 = 3 : 1であるためパラ水素の1次ストークス光がオルソ水素の1次ストークス光より強いピークになるとは考えにくい。このことを考慮するとこのピークは四波混合によって発生したと考えられる。
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