研究課題/領域番号 |
16K14022
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
石田 昭人 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 教授 (20184525)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表面プラズモン加熱 / 新興感染症病原体 / DNA伸長 / 超高感度分析 / 光RCA / 蛍光免疫分析 / DNAアプタマー / マイクロ流体デバイス |
研究実績の概要 |
病原体の迅速な検出同定は新型インフルエンザなどの新興感染症、ノロウィルスや病原性大腸菌による食中毒の予防・制御の鍵であり、特にO157やノロウイルスはわずか数個の病原体で発症するため、感染予防や制御には極微量の病原体を迅速に検出・同定できる検査法が不可欠となる。しかし現在用いられている培養法やイムノクロマトなどの検査法は感度や迅速性の点で医療現場や食品業界のニーズに見合っておらず、最新のデジタルPCRでも未だ満足できるものではない。 そこで、本研究では表面プラズモン共鳴(SPR)の原理を拡張し、プラズモン電場の緩和熱でDNA合成酵素を駆動してRCA(環状鋳型によるDNA伸長)によりDNAを伸長させて蛍光検出することにより、検体中の病原体1個を迅速・確実に検出する全く新しい概念に基づく分析デバイスの開発を目的として研究を行った。 昨年度の研究では、予めプライマーを修飾した抗体と対照抗体を金基板上にそれぞれ直径1 mmで固定化したアレイに、病原体モデルである直径3μmの抗原修飾ラテックス粒子を含む検体溶液を反応させ、SPR角で近赤外レーザ光照射することで病原体モデル粒子を捉えた抗体スポットだけを位置選択的に加熱して、その近傍でDNA合成酵素を駆動し、病原体とは無関係なDNAを抗体上のプライマーから急速伸張させ、これを蛍光染色して検出できることを実証した。特に、40倍程度の低倍率のイメージング装置であっても3μmのモデル粒子を個別に計数可能であることが大きな特長である。一方、標的病原体モデルを捕捉していない対照抗体ではSPR角のシフトが起きないため加熱が起こらず、RCAによるDNA伸長が起きないため、対照抗体のスポットは光らない。 さらに、同じ原理で遙かに小さなnmサイズの標的モデルであるトロンビン粒子をDNAアプタマーによって検出することにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
厚さ50 nmの金基板に直径6 mmのシリコンゴム製ウェルを貼り付け、抗IgG抗体と対照である抗BSA抗体をそれぞれ直径1 mmのスポット状に修飾した。これらの抗体にはあらかじめM13プライマーを修飾した。病原体モデルとして、表面にアミノ基をもつ直径3μmおよび10 μmのラテックスビーズにγ-グロブリンを化学修飾した。これらの病原体モデルをウェルに加えて免疫反応を起こし十分に洗浄した後、RCA液(96-7ポリメラーゼ、M13mp18環状鋳型、ヌクレオチドの混合物)を注入し、808 nm、0.8 Wレーザーを共鳴角+3°のオフセット角でウェル全面に30分間照射した。DNA産物をSYBR Green Ⅰで染色し、共焦点顕微鏡と高感度蛍光イメージャで観察した。 た。 40倍程度の低倍率イメージングであっても抗IgGスポットに結合した直径3μmの病原体モデル粒子周囲の産物DNAからの蛍光が個別スポットとして明瞭に観測され、これを画像解析で計数することにより、検体中の病原体の個数評価も可能であった。このことから、病原体モデルが結合した部分のみを表面プラズモン電場により位置選択的に加熱でき、DNA合成酵素が駆動されてRCAによりDNAを急速に伸長できることが分かった。別途ホットプレートを用いて一連の温度で行った熱反応のDNA産物の蛍光強度と比較して表面プラズモン加熱時の表面温度を推定したところ、37℃であることがわかった。また、表面プラズモン加熱による最高温度は55°に達することがわかった。直径1mmの抗体アレイ上の個別標的粒子が明瞭に観察できたことから、表面プラズモン加熱は位置選択性が高く、水平方向の熱拡散は比較的少ないものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 標的サイズに対応した最適なオフセット角の探索 平滑金膜上のSPR角は表面の誘電率が増加、すなわち、標的病原体が結合すると高角側へシフトする。したがって、標的病原体を捕捉したリガンドのSPR角よりも高角側にオフセットした角度で光照射してやると、標的フリーのリガンドは全く共鳴しないので高いコントラストが得られる。ただし、SPR角のシフトは標的病原体のサイズや形態で大きく異なり、ウィルスや球菌では小さく、体積の大きな桿菌では大きくなる。本研究ではシミュレーションとともに不活化病原体による実測を繰り返し、多様な標的病原体に対応できるよう、最適なオフセット角を決定する。 (2) 最適な照射条件とRCAの反応条件の探索 リガンドによる病原体の捕捉は平衡反応なので、励起用の近赤外光のパワーが強すぎると病原体が解離したり、リガンドが熱変性したり、熱の拡散によって捕捉部位以外でDNAが成長してバックグランドを増大させる恐れがある。捕捉された病原体が解離せず、数分間の照射で十分検出可能な量のDNAが成長して病原体を個別の蛍光スポットとして検出・計数できる照射条件とRCAの反応条件を探索しする。 これらの他に、抗体やアプタマーの修飾条件やブロッキングの条件も分析結果に大きく影響する重要な要素だが、既にかなりのノウハウを蓄積しているので、(1)、(2)の課題を検討する中で、合わせてさらに洗練させる。特に、この種のマイクロアレイを用いる分析においては抗体の配向が非常に大きく影響するので、プロティンAを用いた抗体の配向修飾も実施する。DNAアプタマーには配向の問題はないが、安定度定数は鎖長に強く依存し、また、鎖長が長すぎると標的病原体の捕捉による誘電率変化が相対的に小さくなってSP加熱のコントラストが低下する恐れがあるので既報をもとに冗長部分を極力短くした配列を設計して試用し、最適化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
DNA合成酵素などの高価な試薬をキャンペーン期間に購入したため予定よりも安価で購入できたので、少額ではあるが次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
数千円であるため計画に組み込んで使用する。
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