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2017 年度 実施状況報告書

固定化不要な電気化学アプタマーセンサの開発

研究課題

研究課題/領域番号 16K14023
研究機関兵庫県立大学

研究代表者

安川 智之  兵庫県立大学, 物質理学研究科, 教授 (40361167)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード電解還元析出 / DNAアプタマー / 白金錯体 / インターカレーション / プロトン触媒還元
研究実績の概要

本研究の目的はターゲット分子を含む溶液中に分子認識素子であるDNAアプタマーとシグナル変換素子である白金錯体を混合するだけで,高感度計測可能な電気化学システムを構築することである.本研究では,アプタマーにインターカレートしている白金錯体が電解還元されず,「ターゲット分子の認識により初めて白金錯体を遊離してシグナル変換」することができるワンステップ化と白金錯体の電解還元による電極表面上への白金のナノ粒子を析出によるプロトン触媒還元能の付与による高感度化を実現した計測システムを提案している.
昨年度は,トロンビンアプタマーを用いた固定化不要で競合法を用いないトロンビン計測を行った.白金錯体を含む溶液中で電解還元を行うと,電極表面で白金錯体が還元され電極表面上に金属白金が析出し,プロトンの触媒還元電流が観測された.ここに,トロンビンアプタマー溶液を添加すると,白金錯体がアプタマーに配位し,白金の電解還元析出が阻害され触媒電流は観測されなかった.さらに,トロンビンを添加すると,触媒還元電流の増加が観測された.これは,アプタマーがトロンビンと結合し,白金錯体が遊離されたためである.添加したトロンビン濃度の増加に伴い,プロトン触媒還元電流が増加した.本測定系の検出下限濃度は数十nMレベルであり,溶液を混ぜるだけの簡便な測定法である.
さらに,アプタマー修飾微粒子を用いた誘電泳動によるトロンビンの簡易計測法を開発した.微粒子に固定化されたアプタマーにトロンビンが結合することにより,微粒子表面の表面電荷量(表面導電率)が減少し,負の誘電泳動から正の誘電泳動に切り替わる交差周波数が低周波数側にシフトした.この交差周波数を計測することによるトロンビンの簡易定量を可能にした.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

トロンビンアプタマーに白金錯体が結合した複合体に,トロンビンを添加するだけで,トロンビンを計測できる測定法を開発できた.トロンビンの添加により,トロンビンアプタマーに結合していた白金錯体が遊離し,プロトンの触媒還元電流が増加することを利用している.この手法により,競争法を用いない低分子計測が可能になり,本研究で提案する新規計測システムの構築が可能となる.本件については,昨年度の電気化学会にて学会発表を行った.
初年度に引き続き,電気化学活性種で修飾したアプタマーを用いたコカインセンサの開発を行った.測定対象物質であるコカインのアプタマーへの結合による電気化学反応の増加を原理としているため,結合した測定対象物質と結合していない測定対象物質を洗浄により分離する必要のない簡便なセンサを開発できた.この手法は,法規制分子であるコカインのような危険ドラッグ類を,あらかじめ仕込んでおかなければならない競合法ではないことが大きな利点となる.
ITO薄膜電極を用いた白金錯体の電解還元では,ITO表面上に金属白金が析出しプロトン触媒電流が観測される.しかし,白金錯体が存在しない場合には,電解還元により電子移動反応速度の向上が観測された.現在,この現象について詳細に調査中である.
当初予定していた研究以外の成果として,アプタマー修飾微粒子の誘電泳動を利用したトロンビンセンサを開発した.この方法では,アプタマーを修飾した微粒子の誘電泳動挙動が,トロンビンの添加に伴うトロンビンの結合による大きな変化を利用している.この成果は,特許出願(特願2018-69360)した.
以上のように,当初予定のトロンビン計測法に加え,電極の活性化現象や誘電泳動法の融合等,多岐の応用展開ができたため,当初の計画以上に進展していると判断している.

今後の研究の推進方策

昨年度の研究において,新たにわかってきたITO電極の活性化による電子移動反応速度の向上について詳細に検討する.ITO電極電位に負電位を印加すると大きな還元電流が流れるとともに,電極の色が無色透明から茶褐色に変化する.また,電解還元した電極を用いた電気化学活性種の酸化還元応答は,電解還元を行わない電極の応答と比較して,ピークセパレーションが小さい理論的な酸化還元波に近い大きな酸化還元電流応答が得られる.この現象を説明するために,X線光電子分光法を用いて各処理を行った電極表面の組成分析を行い,走査型電子顕微鏡で微細な表面形状を観察する.これにより,ITO電極の活性化による電子移動反応速度の向上のメカニズムを解明する.さらに,この活性化ITO電極を用いて,白金の電解還元に伴うプロトンの触媒還元反応を用い,トロンビン検出の高感度化を行う.
また,アプタマー修飾微粒子の誘電泳動を利用したトロンビンセンサの開発を継続して行う.微粒子に固定化したトロンビンアプタマーにトロンビンが結合すると微粒子表面の電荷量が減少し交差周波数が低周波数側にシフトすることを見出した.今後は,微粒子サイズ,溶液導電率,電極形状の最適化を行い,検出感度を向上させる.微粒子サイズが小さいと交差周波数は高周波数側に移動するので,低周波数領域で起こる電気浸透流現象の影響を無視できるので有利である.しかし,粒子サイズの減少によりブラウン運動の影響が顕著になり,誘電泳動による集積化が困難になる.そこで,各電極デザインに対する最適な粒子サイズを調査し,高感度化につなげる.また,測定対象をトロンビンからペプチド,小分子へと拡張する.

次年度使用額が生じた理由

当初目的としていた白金錯体の高感度電気化学測定を利用した簡便なトロンビン(モデルターゲット)計測に関して有用な結果を得ることができた.しかし,やや再現性に乏しかったため原因を精査したところ,電極の初期活性のばらつきが問題であることがわかってきた.そこで,電極の活性化処理を行うと,特定の電気化学活性種に対する応答の回復が観測されることがわかった.この現象を解明し,本センサシステムを確立するためにも継続して研究を実施する必要がある.また,誘電泳動を組み込んだまったく新規なトロンビン計測法の可能性を示せた.本件に関しても,さらに深く追求するとともに,学会発表および論文発表を行う必要があり,次年度使用額が必要である.

  • 研究成果

    (27件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)

  • [雑誌論文] Simple Formation of Cell Arrays Embedded in Hydrogel Sheets and Cubes2018

    • 著者名/発表者名
      Takatomo Sugano, Yui Sasaki, Fumio Mizutani, Tomoyuki Yasukawa
    • 雑誌名

      Anal. Sci.

      巻: 34(2) ページ: 127-130

    • DOI

      10.2116/analsci.34.127

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Quantitative and single-step enzyme immunosensing based on an electrochemical detection coupled with lateral-flow system2017

    • 著者名/発表者名
      Kohei Tominaga, Satoshi Arimoto, Ken Shimono, Toshihiko Yoshioka, Fumio Mizutani, Tomoyuki Yasukawa
    • 雑誌名

      Anal. Sci.

      巻: 33(4) ページ: 531-536

    • DOI

      10.2116/analsci.33.531

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 誘電泳動を利用する細胞の分離と分析2017

    • 著者名/発表者名
      安川智之
    • 雑誌名

      ぶんせき

      巻: なし ページ: 418-424

    • 査読あり
  • [学会発表] 誘電泳動による単一細胞ペアの形成と電気パルス細胞融合2018

    • 著者名/発表者名
      岡山太樹,安川智之
    • 学会等名
      電気化学会第85回大会
  • [学会発表] バイオLSIを用いたゼブラフィッシュ胚の酸素消費量に基づく毒性評価法の開発2018

    • 著者名/発表者名
      寺尾和輝,國方亮太,須田篤史,井上(安田)久美,伊野浩介,末永智一,安川智之
    • 学会等名
      電気化学会第85回大会 第63回化学センサ研究発表会
  • [学会発表] Rapid enrichment and mechanical stimulation of mesenchymal stem cells using dielectrophoresis devices2018

    • 著者名/発表者名
      Junya Yoshioka, Yu Ohsugi, Toru Yoshitomi, Tomoyuki Yasukawa, Naoki Sasaki, Keitaro Yoshimoto
    • 学会等名
      255th ACS National Meeting & Exposition
    • 国際学会
  • [学会発表] 電気化学計測システムを組み込んだ全自動イムノクロマトグラフィー2017

    • 著者名/発表者名
      安川智之,富永浩平,水谷文雄
    • 学会等名
      化学とマイクロ・ナノシステム学会第35回研究会
  • [学会発表] 動く小動物を対象とした電気化学2017

    • 著者名/発表者名
      安川智之,水谷文雄
    • 学会等名
      第77回分析化学討論会
    • 招待講演
  • [学会発表] 三重極マイクロバンド電極を利用した負の誘電泳動による異種細胞パターニング2017

    • 著者名/発表者名
      菅野尊公,水谷文雄,安川智之
    • 学会等名
      第77回分析化学討論会
  • [学会発表] 鋸型電極を使用した誘電泳動による細胞分離・細胞力覚分析用デバイスの開発2017

    • 著者名/発表者名
      吉岡純矢,大杉 悠,吉冨 徹,安川智之,佐々木直樹,吉本敬太郎
    • 学会等名
      日本生物工学会セルプロセッシング計測評価研究部会
  • [学会発表] マイクログリッド電極による負の誘電泳動現象を利用した細胞凝集塊の作製2017

    • 著者名/発表者名
      菅野尊公,水谷文雄,安川智之
    • 学会等名
      日本分析化学会近畿支部 第11回夏季セミナー
  • [学会発表] マイクロウェルアレイ電極を用いた単一細胞アレイの作製における非特異吸着の抑制2017

    • 著者名/発表者名
      岡山太樹, 安川智之
    • 学会等名
      日本分析化学会近畿支部 第11回夏季セミナー
  • [学会発表] バイオLSIによるゼブラフィッシュ胚の挙動と酸素消費量に基づく薬効評価法の開発2017

    • 著者名/発表者名
      寺尾和輝,安川智之
    • 学会等名
      日本分析化学会近畿支部 第11回夏季セミナー
  • [学会発表] Manipulation of individual cells based on dielectrophoresis using a microdisk electrode with a microcavity2017

    • 著者名/発表者名
      Tomoyuki Yasukawa, Fumio Mizutani
    • 学会等名
      AMEC International Symposium on Medhical and Health Technology
    • 国際学会
  • [学会発表] Dielectrophoretic Manipulation to Collect Targeted Single Cells2017

    • 著者名/発表者名
      Tomoyuki Yasukawa, Fumio Mizutani
    • 学会等名
      RSC Tokyo International Conference 2017
    • 国際学会
  • [学会発表] インターカレータ型白金錯体の電解還元析出を利用したDNA計測2017

    • 著者名/発表者名
      安川智之,有本 聡,下野 健,吉岡俊彦,水谷文雄
    • 学会等名
      2017年電気化学会秋季大会第62回化学センサ研究発表会
  • [学会発表] 三重極マイクロバンド電極による誘電泳動を利用した異種類の細胞パターニング2017

    • 著者名/発表者名
      菅野尊公,水谷文雄,安川智之
    • 学会等名
      2017年電気化学会秋季大会
  • [学会発表] 鋸型電極デバイスの誘電泳動を利用するヒト骨髄由来細胞の非標識な分離と濃縮2017

    • 著者名/発表者名
      吉岡純矢,大杉 悠,吉冨 徹,安川智之,佐々木直樹,吉本敬太郎
    • 学会等名
      日本分析化学会第66年会
  • [学会発表] DNA修飾ポリスチレン微粒子の交差周波数計測2017

    • 著者名/発表者名
      岡崎仁,安川智之
    • 学会等名
      日本分析化学会第66年会
  • [学会発表] アプタマー修飾微粒子の誘電泳動操作を用いたバイオセンシング法の開発2017

    • 著者名/発表者名
      岡崎仁,安川智之
    • 学会等名
      化学とマイクロ・ナノシステム学会第36回研究会
  • [学会発表] マイクログリッド電極を用い誘電泳動による細胞凝集塊の作製2017

    • 著者名/発表者名
      菅野尊公,吉岡純矢,吉本敬太郎,安川智之
    • 学会等名
      化学とマイクロ・ナノシステム学会第36回研究会
  • [学会発表] 微小電極と電気化学顕微鏡(SECM)2017

    • 著者名/発表者名
      安川智之
    • 学会等名
      第47回電気化学講習会
    • 招待講演
  • [学会発表] Array of Precise Cell-pairs Based on Positive Dielectrophoresis2017

    • 著者名/発表者名
      Tomoyuki Yasukawa, Fumio Mizutani
    • 学会等名
      The 12th Asian Conference on Chemical Sensors (ACCS2017)
    • 国際学会
  • [学会発表] マイクログリッド電極による誘電泳動を利用した大量一括で迅速な細胞凝集塊の作製2017

    • 著者名/発表者名
      菅野尊公,吉岡純矢,吉本敬太郎,安川智之
    • 学会等名
      第63回ポーラログラフィーおよび電気分析化学討論会
  • [学会発表] 迅速で簡便な細胞操作法の「創る」と「測る」への応用2017

    • 著者名/発表者名
      安川智之
    • 学会等名
      静電気学会 2017 年度シンポジウム-静電気工学が拓くナノバイオテクノロジー:細胞・分子操作の最新動向-
    • 招待講演
  • [備考] 兵庫県立大学 大学院物質理学研究科 物質反応解析学部門 化学分析学講座

    • URL

      http://www.sci.u-hyogo.ac.jp/material/analytical_chem/index-j.html

  • [産業財産権] アプタマーを利用する標的物質の定量方法2018

    • 発明者名
      安川智之,岡崎 仁
    • 権利者名
      安川智之,岡崎 仁
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2018-69360

URL: 

公開日: 2018-12-17  

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