研究課題/領域番号 |
16K14024
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
新井 敏 早稲田大学, 総合研究機構, 次席研究員(研究院講師) (70454056)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 蛍光タンパク質 / ATP / 蛍光プローブ / バイオイメージング / 定量解析 |
研究実績の概要 |
生体の代謝システムにおいて、エネルギーの通貨の役割を果たしているアデノシン3リン酸(ATP)の細胞内の分布を自在に知ることが出来れば、生物学の研究は加速度的に進むに違いない。しかしながら、細胞が生きた状態のままで、標的となる細胞小器官のATPの濃度を定量的に計測する有効な手法は未だに確立されていない。本研究では、細胞の中のATP濃度を蛍光寿命の値へと変換できる遺伝子コード型の蛍光タンパク質のセンサーを開発することを目的としている。蛍光強度の変化を指標とする蛍光センサーは、その輝度の値がセンサーの濃度によって異なるため、輝度値を計測しても、即時に、そこからATPの濃度が算出できない。一方で、蛍光寿命は、輝度の強さとは独立した値であるため、横軸にATP濃度、縦軸に蛍光寿命の値をプロットした検量線を描くことで、その蛍光寿命を測定した後に、ATPの濃度へと直接変換できる大きなメリットがある。 当該年度は、緑色蛍光タンパク質の変異体に、ATPを特異的に結合できるユニットを挿入した蛍光センサーの開発(スクリーニング)を開始した。蛍光タンパク質とATP結合のためのユニットを繋ぐ様々な長さや堅さのリンカーをもった変異体を大腸菌に発現させ、これを超音波破砕してセンサータンパク質を抽出、ATP結合に伴って、蛍光寿命が変化する変異体を探索した。結果、幾つかの変異体が、ATP濃度の変化に伴い、蛍光寿命に大きな変化を伴うことが分かった。更に、その中には、生理条件のATP濃度の近い(ミリモルオーダー)範囲で、想定したとおりに作動する変異体も見出すことが出来た。年度の後半より、HeLa細胞へ発現させ、哺乳類の細胞でATP濃度変化を検出できるか、顕微鏡の実験を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ATP濃度を蛍光寿命の値に変換できる蛍光センサーのスクリーニングを開始し、プロトタイプを得ることができた。このセンサーが、生理条件でのATP濃度として既に知られているミリモル濃度で作動するかどうかが懸念事項であったが、この条件を満たす変異体が見つかったことから、概ね、研究は想定した通りに進んでいる。既に、センサーを得るための効率的なスクリーニングの系の立ち上げが完了したことも、本提案を進める上で、今後の強みになってくるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
既に確立したスクリーニングの系で、更なるセンサー感度の向上(ATP濃度の変化に対して、劇的に蛍光寿命が変化する変異体)を目指す。一方、プロトタイプも十分に作動することがわかってきたことから、センサー改良と併行して、実際の生物学研究でどれくらい有用に使えるかを検討していく段階へと進む。特に、細胞小器官へターゲットするためのシグナル分子(ミトコンドリア、核、ER、細胞膜など)を導入し、ATPセンサーを用いて、細胞内の狙った場所のATP濃度を測定する。また、細胞の種類も、がん細胞の限らず、様々な細胞種のATPの濃度を計測する。一連の実験を通して、エネルギー状態の定量解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験で想定した消耗品の使用が、想定よりも多少少なかったため、若干の差額が生じている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の消耗品の購入のために繰り越して、使用する予定である。
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