通常は液性因子として作用する成長因子などを材料に固定化すると活性や効能が顕著に変化するが,そのメカニズムについては不明な点が多い。本研究では,これら非拡散性因子を細胞に暴露する「タイミング」と「量」の自在に制御する方法を開発することで,当該因子由来の細胞応答の時間分解分析を実現することを目的としている。本年度は,液性因子である上皮成長因子(EGF)を金ナノ粒子に固定化することで,通常の遊離状態のEGFとの作用の違いに注目しその解析を行った。活性エステルおよびPEG(Mw = 5000)を末端に有する2種類のジスルフィドを適当比で混合し,金ナノ粒子(粒径: 20 nm)表面を修飾した後,EGFを反応させた。動的光散乱法および溶液中のEGFの減少量から,このナノ粒子は約50 nmで,1粒子当たり50分子程度のEGFが固定化されていることが分かった。このEGF-GNPはHeLa細胞のアポトーシスを誘導し,その際,AKTについては一過性の活性化を示すのに対し,ERKの活性は長時間維持させることが分かった。つづいてEGF-GNPのHeLa細胞における作用点を暗視野顕微鏡による観察およびスクロース濃度勾配法による生化学分析で調べた。その結果,通常の溶存状態のEGFの場合は脂質ラフトに作用後にそこから脱出するのに対して,EGF-GNPは脂質ラフト内にとどまることが明らかになった。そこで,脂質ラフトの役割を調べるために,脂質ラフトの形成を阻害するβ-CDで予め処理した細胞にEGF-GNPsを添加したところ,アポトーシス誘導活性がほぼ失われることが分かった。この結果より、通常は細胞増殖・分化を促進するEGFを金ナノ粒子に固定化することで,逆に細胞死を誘導するメカニズムにおいて,脂質ラフトが重要な役割を果たしていることが示唆された。現在,本研究の内容について論文を作製しているところである。
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