研究課題/領域番号 |
16K14030
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
服部 満 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (20589858)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光制御 / 蛍光タンパク質 |
研究実績の概要 |
細胞中の任意のタンパク質の挙動を人為的に操作する手法のひとつ「光制御法」では, 生体組織透過性の高い長波長の光による制御方法が不足している. 本研究では, 光制御原理の中心である光応答タンパク質の多くが青色光 (短波長) 制御であるという問題を克服するため, 次の2つの原理, 1. 長波長の光照射による蛍光分子からの青色近接場光の発生及び光応答タンパク質の活性化, 2. 長派長光応答タンパク質の利用による光制御, のいずれかを達成することで, 長波長光でも制御できる方法の確立を目的とする. 同原理を実際の細胞内タンパク質の挙動と組み合わせることで, 炎症反応や神経細胞伸長などの細胞活動を任意のタイミングで長波長光制御する. 生物個体深部などに適用出来る実用性の高い手法を確立する. 本年度は, 光制御方法として計画していた 1. 2. のそれぞれの方法を試行した. 1.では, 長波長の励起光によって発生する近接場光に関してその基本的なデータも含めて絶対的に知見が少ないことから, 蛍光分子および蛍光タンパク質それぞれに対して, 長波長の励起光を照射した際の近接場光発生の条件および環境による効率の違いを調査した. 本年度は近接場光の発生を具体的に検証することはできず次年度に方法を模索する. 2. では, 長派長光応答タンパク質の利用を試み, 細胞膜タンパク質に光応答タンパク質を融合させる形で細胞内に発現させて, 細胞膜上のタンパク質の多量化を光誘導した. 結果, 細胞シグナルが増加していることを確認し, 長派長光による光制御を実現した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は光制御方法として計画していた 1. 長波長の光照射による蛍光分子からの青色近接場光の発生及び光応答タンパク質の活性化, 2. 長派長光応答タンパク質の利用による光制御, のそれぞれを試行し, その効果, 現実性を検討した. 1. の長派長光による近接場光の発生が実際に起きるか検証するため, 緑色蛍光タンパク質を複数連結した融合タンパク質を発現するプラスミドを作製し, 培養細胞へ導入した, 蛍光タンパク質の発現を確認したのち, 赤色光LEDを細胞懸濁液に照射して緑色蛍光が発生するか確認した. しかし蛍光は検出されず, 現時点の系では近接場光の発生は誘導できない, もしくは発生しても近傍の蛍光タンパク質が最適な距離に位置しておらず励起されていないことが推測される. したがい, 今年度計画していた近接場光の発生による可視蛍光の発生は達成できていない. 2. の長派長光応答タンパク質の利用では, 赤色光で反応するPhytochrome系のタンパク質を選択し, 実際のタンパク質光制御に応用するタンパク質発現プラスミドを作製した. 細胞膜タンパク質に光応答タンパク質を融合させる形で細胞内に発現させて, 細胞膜上のタンパク質の多量化を光誘導した. 実際に多量化による細胞シグナルが増加していることを下流のタンパク質のリン酸化を検出することで確認した. したがい, 長派長光による光制御が実行できた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の2つを目標として研究開発を進める. 1. 長波長の光照射による蛍光分子からの青色近接場光の発生及び光応答タンパク質の活性化,では, 蛍光タンパク質での近接場光の発生が確認できなかった. そこで, 近接場光で近隣の分子を励起できることが証明されている有機蛍光色素を用いて検証する. 具体的には, まず緑色蛍光色素が高濃度に存在する溶液を準備して, 赤色光レーザーなどで照射することで, 緑色蛍光が発生することを確認する. その際に蛍光の発生する条件を様々な照射方法から具体化する. 続いて, 青色光応答タンパク質にSNAPタグを繋げ, 蛍光色素を付加できる形にする. 細胞中に発現させたのち蛍光色素を添加して近接場光が蛍光タンパク質に照射される状態を作る. 実際に赤色レーザーを照射して緑色蛍光が発生するか検討する. 2. 長派長光応答タンパク質の利用による光制御, では前年度に成功している光制御によるタンパク質多量化のシステム開発を続ける. 細胞膜タンパク質操作の1例として,G-protein coupled receptor (GPCR) タンパク質をターゲットとする. GPCRは多岐にわたる疾患の薬剤ターゲットとして注目されており, そのホモダイマー化によって下流へのシグナルが制御されることが知られている. GPCRに光応答タンパク質および蛍光分子を繋げることで, GPCRホモダイマー化を長波長光照射によって引き起こす系を開発する.
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次年度使用額が生じた理由 |
近接場光による蛍光タンパク質の励起, もしくは光応答タンパク質の光刺激を実行するため, 今年度は近接場光が予想通り発生するか, 発生した場合にはどのような条件が必要か, を検討した. その結果, 緑色蛍光タンパク質を複数連結した融合タンパク質では近接場光の発生が確認できず, 近接場光を前提とした各種の検討実験を進めることができなかった. そのため, 本年度に使用する予定であった検出試薬, 観察備品等の購入を次年度に行うこととした.
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次年度使用額の使用計画 |
達成することができなかった近接場光の発生を実現するため, 本年度は検証していない有機蛍光色素を購入し, 近接場光で近隣の色素分子を励起できるか検証する. 具体的には, 緑色蛍光色素を購入し高濃度な溶液を準備して, 赤色光を照射することで緑色蛍光が発生することを確認する. その際に蛍光の発生する条件を様々な照射方法から具体化する. 実験に付随して光源, フィルター等を購入する. 続いて, 青色光応答タンパク質にSNAPタグを繋げ, 蛍光色素を付加する. 細胞内で発現させたのち蛍光色素を添加して, 実際に赤色光を照射して緑色蛍光が発生するか検討する. 青色光応答タンパク質 ,SNAPタグなどの遺伝子材料の合成費用, 最終的な検出に必要な備品を購入する.
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