研究課題/領域番号 |
16K14032
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
愛場 雄一郎 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (10581085)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 核酸 / RNA干渉 / Argonauto / バイオテクノロジー |
研究実績の概要 |
RNA干渉(RNA interference、RNAi)の中心タンパクであるArgonaute(Ago)は、鋳型となるガイド鎖RNAを利用して、相補的な配列を持つ標的RNAの分解、それに伴う選択的な翻訳阻害を行うことが可能である。一方で、原核生物のAgoでは通常用いられるRNAではなくDNAをガイド鎖として相補的なDNA鎖を切断可能なことが近年の研究から明らかとなった。 本研究課題では、原核生物の一種である高度好熱菌Thermus thermophiles由来のAgo(TtAgo)のDNA認識能を詳細に解析し、ガイド鎖への化学修飾の導入や人工核酸への置換を行うことで、その認識能・切断活性を向上させ、TtAgoを配列特異的な新規DNA切断ツールとして利用することを目指す。また、最終的にはゲノム切断ツールとして応用し、新たなゲノム編集技術の構築を行いたいと考えている。 初年度は、鋳型となるガイド鎖中への化学修飾等の導入を行い、TtAgoのDNA認識への影響について検討した。さらに、そのDNA切断活性評価も併せて行った。化学修飾の設計は、結晶構造解析による構造情報に基づき、ガイド鎖とTtAgoの結合・認識がそれほど厳密でないと予想される位置、および厳密に認識されていると予想される位置それぞれに修飾を行い比較検討を行った。まず、ガイド鎖の取り込みに関しては円二色性スペクトル解析を用いて検討を行い、取り込みの確認を行った。その後、DNA切断活性評価についても検討したところ、コントロールである未修飾のDNAと比較して、ガイド鎖中への化学修飾がDNA切断活性に大きく影響を及ぼすことを見出した。本知見は、TtAgoを配列特異的なDNA切断ツールとして利用するうえで非常に重要な知見であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、鋳型となるガイド鎖DNAへの化学修飾の導入や人工核酸への置換に向け、高度好熱菌Thermus thermophiles由来Ago(TtAgo)の核酸認識についてどの程度厳密に認識されているか、もしくは許容性があり認識がどの程度寛容かの基礎的な情報が非常に重要となる。 当初の研究計画では、初年度は結晶構造解析による構造情報に基づき、ガイド鎖中に化学修飾等を導入し、円二色性(CD)スペクトルなどの各種分光学的な手法を利用することで、Agoへのガイド鎖DNAの取り込みや、ガイドDNA/TtAgo複合体と標的DNAとの結合について検討を行うこととした。さらに、それらの情報に基づき、TtAgoへの人工核酸の取り込みおよびそのDNA切断活性評価を行うことを予定していた。 まず第一の検討項目に関しては、表面プラズモン共鳴(SPR)とCDスペクトルを用いた解析について検討を行った。SPRによる解析ではその測定条件の選定が難しく、信頼のあるデータを得るためにはさらなる最適化が必要な状況であるものの、CDスペクトルを用いた解析では鋳型鎖の取り込みを確認することに成功した。続いて、第二の検討項目に関しては、人工核酸として安定性は比較的高いものの天然のDNAに構造が近いLocked Nucleic Acid(LNA)と、骨格構造が大きく異なるもののDNAとの結合力が非常に高いPeptide Nucleic Acid(PNA)について検討を行った。その結果、LNAはガイド鎖への導入によりTtAgoの切断活性に大きく影響を及ぼすことを見出した。一方でPNAは、その構造が天然のDNAとは大きく異なるためかそのままでは良好な結果は得られず、現在はDNAとの複合化についても検討を進めている。 以上から、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、「構造変化を利用したTtAgoによる配列特異的な2本鎖DNA切断」について検討を行う。 TtAgoを汎用的なDNA切断ツールとして応用するうえでは、さらなるDNA切断活性の向上が必要である。TtAgoのDNA切断では、supercoil状態のプラスミドDNAに対しての切断が報告されている。これはDNA中に構造的なひずみがかかっていることで、切断が比較的起こりやすくなっているものと考えられる。そこで、さらなるDNA切断活性の向上に向けて、構造変化を利用したDNA切断の促進についても検討を行う。つまり、DNAの構造変化により局所的なひずみを誘起し、疑似的なsupercoil状態のような環境を構築し、TtAgoによるDNA切断活性の向上を図る。ここで、DNAに構造変化を誘起させる方法として、前述のPNAのインベージョンを利用する。このインベージョンとはPNAの特徴的なDNA認識様式であり、2本鎖DNAに対し相補的なPNAを加えることで、DNA中にPNAが潜り込んだ複合体を形成する現象である。これは、PNAの非常に高いDNA結合力に起因するもので、元のDNA/DNA2本鎖の代わりにより安定なPNA/DNA2本鎖を形成するためと考えられる。この際、DNAには局所的な構造変化が誘起されることがわかっており、その物理学的特性も変化することが予想される。 また、初年度で検討の途中となっているPNAのガイド鎖としての利用等についても併せて検討を行う予定である。
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