研究課題/領域番号 |
16K14034
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
田中 直毅 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 教授 (60243127)
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研究分担者 |
和久 友則 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 助教 (30548699)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / ペプチドナノファイバー / 蛋白質異常凝集 / 細胞膜透過性配列 / 卵白アルブミン / 分泌シグナル |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病はアミロイドベータやタウなどの蛋白質の脳内で凝集することで引き起こされることが知られている。これまでの研究でこの蛋白質異常凝集は熱ショック蛋白質由来のペプチドナノ集合体によって抑制できることを明らかにした。しかしペプチドナノ集合体は数百ナノメートルのサイズを有するため、血管から投与しても脳血液関門を通過せず、脳内に送達されない。そこでナノ集合体に細胞膜透過性配列であるアンテナペディアを付加することで、血管から脳内への移行させアルツハイマー病疾患モデルマウスの脳神経細胞の障害を防ぐことに成功した。しかしこれは大量のペプチドナノファイバーを投与した結果であり、治療薬としての利用には脳内送達量の向上が必要である。 アンテナペディアを介した脳内移行は、細胞をトランスサイトシスで通過することが知られている。そこで本研究ではトランスサイトシスとは異なる脳血液関門透過機構を平行利用して、ナノファイバーの脳内送達量を飛躍的に向上させる。具体的は卵白アルブミンのN末端に存在する分泌シグナルの配列を有するペプチドをビルディングブロックを設計し、様々なナノ集合体を調製した。細胞膜透過性配列であるポリアルギニンと卵白アルブミンの分泌シグナルペプチドの複合体によってナノ集合体を形成させる。ポリアルギニンを介したトランスサイトシスと分泌シグナルを介した脳内透過の二重径路化により、ナノファイバーの脳内送達量を飛躍的に向上させることを目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
卵白アルブミンは細胞内輸送を受け細胞外に放出される分泌タンパク質の一種である。分泌タンパク質は分泌シグナルペプチドを介して細胞外に移送され、卵白アルブミンの場合その分泌シグナルはN末端領域に存在する。通常分泌シグナルペプチドは分泌過程で切断されるが、卵白アルブミンの場合シグナルペプチドが切断されない。 28年度はこの配列に相当する合成ペプチドacetyl-GSIGAASMEFCFDVFKELKVHH(pN1-22)の自己集合体を利用した。このペプチドと細胞透過能をもつポリアルギニン(R9)の複合体が形成するナノ集合体について検討した。pN1-22とR9は60℃、一時間の熱処理によってファイバー状のナノ集合体を形成した。この集合体は電荷がゼロに近く、疎水性表面を有しているため病原タンパク質の凝集抑制に適した性質を有している。実際にアミロイドベータの凝集を抑制したものの、神経細胞モデルであるPC12の細胞死を抑制することは出来なかった。これは細胞毒性の原因となる微小は凝集体の形成を抑制できないためと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
28年度に実施したpN1-22をビルディングブロックとするナノ粒子は、細胞毒性の抑制については良好な結果が得られなかった。そのため本課題では研究の推進方策を転換し、卵白アルブミンの部分配列ではなく蛋白質が形成するナノ集合体を用いる研究を行う。卵白アルブミンのN292の位置が多糖で修飾されているため、全配列を利用するとこの多糖を介して脳内に移行する可能性がある。したがって卵白アルブミンのナノ集合体は、N末端のタンパク質分泌配列と蛋白質が有する糖鎖の双方を介した二重経路化によって脳内に移行できることが示唆される。 これまでの研究で卵白アルブミンは単独で熱処理するとナノファイバーを形成することが知られている。しかしこのナノ集合体は脳内移行性に乏しいことも判明している。そこで本課題ではポリエチレングリコールを修飾した蛋白質が有機溶媒中で安定なナノ集合体を形成す現象を利用する。鎖長の異なるポリエチレングリコールを様々な条件で卵白アルブミンに修飾することで、様々な性質を有するナノ集合体を調製し、それらの蛋白質異常凝集抑制機能を調査する。
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