アルツハイマー病は、アミロイドβ(Aβ)蛋白質が脳内で凝集することにより引き起こされる。これまでの研究で、Aβ蛋白質異常凝集を熱ショック蛋白質由来のペプチドナノ集合体によって抑制できることを明らかにした。さらに、脳内移行性を促進するペプチド配列を付加することで、ナノ集合体の脳内への送達およびアルツハイマー病疾患モデルマウスの病状の改善にも成功した。しかし、この系ではナノ集合体を大量に投与する必要があり、治療薬としての利用には脳内送達効率の向上が課題であった。そこで、本研究では蛋白質異常凝集抑制能を持つナノ会合体を新たに作製し、そこに脳内移行を促進する二種類のリガンドを導入することで、脳内移行性に優れた凝集抑制剤を開発することを狙いとした。 最初に、ナノ会合体を作製するためのベースマテリアルとして、卵白アルブミン(OVA)のN末端領域に相当するペプチドpN_<1-22>に着目し、ナノ集合体を作製した。pN_<1-22>配列はOVAの分泌シグナル配列と一部重複することから、何かしらの脳内移行促進作用があることを期待した。しかし、このナノ集合体はAβの凝集を抑制したものの、Aβの細胞毒性を抑制することは出来なかった。そこで次に、ベースマテリアルとして卵白タンパク質(OVA、リゾチーム、オボトランスフェリン)そのものを選択し、既報に従ってO/Wエマルション法によりナノ粒子を作製した。いずれのタンパク質を用いた場合も、負の表面電荷をもつ粒子径およそ100nmのナノ粒子を形成した。また、いずれのナノ粒子もAβの異常凝集を抑制することが確認されたが、興味深いことにナノ粒子を構成するタンパク質の種類の違いによりAβとの相互作用パターンが大きく異なることが分かった。今後は研究分担者が研究を引き継ぎ、卵白タンパク質ナノ粒子がAβの細胞毒性を抑制することができるかどうかを調査するとともに、脳内移行を促進する糖鎖やペプチドなどの導入についても検討する予定である。
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