研究課題/領域番号 |
16K14041
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
杉本 直己 甲南大学, 先端生命工学研究所, 教授 (60206430)
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研究分担者 |
高橋 俊太郎 甲南大学, 先端生命工学研究所, 講師 (40456257)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 分子クラウディング / RNA / DNA / ポリメラーゼ / ポリエチレングリコール / 分子進化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、分子クラウディング環境の変化が生命進化をもたらしたとする「クラウディングワールド仮説」を提唱し、RNAワールドからDNAワールドへと移る過程を分子クラウディング環境の変化によって実現できるかどうかを検証することである。H28年度は、クラウディング環境下において各種ポリメラーゼのRNAおよびDNA合成活性を定量解析することを目標とした。先ず分子クラウディングが核酸に及ぼす効果について検討した。ポリエチレングリコール(PEG)による分子クラウディング効果による核酸構造のダイナミクスを解析したところ、PEG鎖が核酸の部位特異的に相互作用することで局所的な脱水和を引き起こし、構造安定性を変化させることが見出された(S. Takahashi et al., Mol. Enz. Drug Targ., 2, 3 (2016), S. Takahashi et al., J. Inorg. Biochem., 166, 199-207 (2017).)。これらの知見を生かし、T7 RNAポリメラーゼの反応系中に種々の分子量の異なるPEG鎖を添加して反応を観察したところ、反応速度と基質特異性がそれぞれPEG鎖の違いによって影響を受けることが分かった。特にPEG200(平均分子量200)を用いた際に、元来の基質であるRNAの重合が低下し、元来基質ではないDNAの重合活性が促進された。したがって、RNAワールドからDNAワールドへと移る過程では、PEG200と同じような分子によるクラウディング環境がRNAポリメラーゼに影響することで、DNA重合が行われていたことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子クラウディングが核酸やタンパク質に特異的かつ直接的に相互作用することで、標的分子上に局所的なクラウディング環境が生まれることが見出された。したがって、分子クラウディングの構造や物性を変えることで、標的分子の機能を様々に調節することができることが分かってきた。その結果、分子クラウディングワールドとして仮説を立てていたRNAポリメラーゼ活性がクラウディング環境に応じてDNAポリメラーゼへと変換する様子を実証することに成功した。クラウディング環境の系統的な検討と、蛍光相関分光法を用いたポリメラーゼと鋳型核酸複合体の観察、および立体構造情報から推測される活性変換のメカニズムの推定などにより、反応メカニズムの化学的な解釈を進めることができた。当初はH29年度に行う予定であった様々な非天然型核酸の合成反応も行い、非天然型核酸を含むオリゴRNA重合ができるクラウディング条件も既に見つけることができた。現在はこれらの手法に関する特許の出願準備をしており、研究成果は論文投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内のクラウディング変化による生体分子の機能変換のモデル実験を行う。具体的には複製系を内包したリポソーム内でのRNAおよびDNAの重合反応を解析する。PEG濃度を系統的に変えることでリポソーム内のクラウディングを変えた際にもポリメラーゼの活性変換が生じるか確認する。さらにリポソーム内にクラウディング状態が経時的に変化するシステムを共存させて、複製反応の転換が起こるか検討する。系内のクラウディング状態はグルコースからグリコーゲンを合成するグリコーゲン合成酵素によって鎖長の長いグリコーゲンを経時的に作製することを計画している。多糖のグリコーゲンはクラウディング剤として働くと期待できる。RNAおよびDNA合成速度をグリコーゲン合成のキネティクスと比較し、低クラウディング状態ではRNA合成が、高クラウディング状態ではDNA合成が優先的に起こっているか確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
主に執行予定であった論文の英文校正費が、当初の予定していた価格より安価に抑えられたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度での英文校正費や実験用消耗品費として使用する。
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