研究実績の概要 |
本研究の目的は、分子クラウディング環境の変化が生命進化をもたらしたとする「クラウディングワールド仮説」を提唱し、RNAワールドからDNAワールドへと移る過程を分子クラウディング環境の変化によって実現できるかどうかを検証することである。H29年度は細胞内クラウディング環境に応じたDNAやRNAの重合反応に関する定量的な解析を進めた。まず、分子クラウディングによって誘起される鋳型DNAの特殊構造(グアニン四重鎖やi-motif構造)がDNA重合反応に与える影響を解析したところ、特殊構造の安定性に応じてDNA重合反応の速度が低下することを見出した(S. Takahashi, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 114, 9605 (2017))。さらに、特殊構造を有する鋳型DNAからのRNA重合反応に関する解析を行い、細胞内の分子環境が変化することで、重合するRNAの量や質が変わってくることを明らかにした(H. Tateishi-Karimata, et al., J. Am. Chem. Soc. 140, 642 (2018))。これらの現象はタンパク質を介さない遺伝子発現制御であることから、タンパク質が無かったRNAワールドでは鋳型核酸の構造が遺伝子発現制御を司っていたことが示唆された。さらに、鋳型核酸の構造による遺伝子発現制御が現在の細胞システムでも活用されていることから、RNAワールドからDNAワールドに移り変わる過程で、その制御システムがRNAからDNAに引き継がれた可能性を示すことができた。 さらに、分子クラウディングによる核酸重合反応の調節を工学的に活用することも検討した。その結果、T7 RNAポリメラーゼの反応系内に高濃度のPEG200を添加することで、DNAの2'位がFやOMeに修飾されたモノマーを重合できるように酵素活性が変化する事を見出した。これらの成果に関しては、現在論文投稿中である。
|