本年度は、前年度に設計した「3'末端に蛍光団を修飾した一本鎖DNAとナノサイズの酸化グラフェン(nGO)からなる複合体群」の、抗体評価への応用可能性をさらに詳細に調べた。 (i) 熱による劣化過程のモニタリング:水溶液中で抗体に熱が加わると、立体構造の段階的な破壊や、会合体の形成およびその成長などによって複雑な経路で劣化をしていく。複合体群によって取得した蛍光フィンガープリントを線形判別分析によって解析するアプローチを利用することで、80℃でオマリズマブを加熱した際の複雑な劣化過程の各段階を識別することに成功した。(ii) 多様な抗体の劣化評価:同手法を用いることで、等電点が6.5から8.7の間の計4種の医薬品抗体の評価を行った結果、天然状態と凝集状態を識別できることが見出された。以上のように、ssDNA/nGO複合体群を用いる本手法は、1回の簡単なアッセイで迅速に抗体の状態を決定できるため、将来的には抗体産生における条件スクリーニングなどに資する分析技術としての利用が期待できる。 上記の方法は、蛍光フィンガープリントを獲得するために、マイクロプレートの複数のウェルからの蛍光応答を検出する必要があった。そこで、よりハイスループットなフィンガープリント獲得を可能にするために、マルチチャネル化を試みた。具体的には、異なる配列のssDNAのそれぞれに対して、フルオレセインやローダミンといった異なる波長の蛍光を生じる蛍光団を修飾したものを、1つのウェル中でnGOと混合した溶液を利用することで、1ウェルからでもタンパク質の識別に利用できる蛍光フィンガープリントが得られることを見出した。現在はこの知見をもとにして、抗体評価系の更なる改良を試みている。
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