研究課題
微生物型ロドプシンは、単細胞微生物の細胞膜に存在し、光センサー、光ゲートイオンチャネル、光駆動型イオンポンプなどとして機能する膜タンパク質である。本研究では、イオンポンプ型ロドプシンを出発材料として、“内向きH+ポンプ”あるいは”内向きNa+ポンプ”を作成し、それらを毒物の膜輸送担体である多剤排出トランスポーターと共役させることを目指している。この共役系を用いて、光をエネルギー源としながら、細胞内へ毒物を濃縮する“環境浄化微生物”を作製することが最終的な目標である。今年度は、以下の結果を得た。1)Anabaena sensory rhodopsin(ASR)の内向きH+ポンプ活性の強化を目指して、タンパク質の細胞外側チャネルに位置する複数の疎水性残基を親水性残基へ変異させた。しかし、活性の上昇は僅かであった。チャネル内に存在する荷電性残基もH+を取り込み易いように変異させる必要があると考えられた。2)イオンポンプ型ロドプシンと多剤排出トランスポーターの共役が可能であることを確認するため、外向きH+ポンプ、及び、外向きNa+ポンプと、H+共役型トランスポーターであるEbrAB, AcrAB、及びNa+共役型トランスポーターであるNorMの大腸菌における共発現系を構築した。その結果、Na+ポンプとNorMの共発現細胞において、細胞内に蓄積させた薬物の約20%の排出が光照射下において観測された。よって、大腸菌細胞においては、H+共役よりもNa+共役の方が効率よく多剤排出トランスポーターを駆動できることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
イオンポンプ型ロドプシンと多剤排出トランスポーターの共役系構築に向けて重要な指針が得られた。上述した通り、Na+共役が有効であることが示唆された。また、多剤排出トランスポーターの発現量は、共役の効率に大きな影響を与えないことが解った。よって、共役効率の上昇のためには、Na+ポンプの発現量を増大させることが必要である。
1.ASRの細胞外側チャネルの荷電性残基を変異させることで、内向きH+ポンプ活性の強化を図る。2.外向きH+ポンプ、及び、外向きNa+ポンプの膜内トポロジーを逆転させることで、内向きポンプの実現を図る。そのために、他のロドプシンの部分配列を、外向きポンプのN末端側へ融合させる。また、変異によって逆方向のpositive inside biasを付与する。3.Na+ポンプとNorMの共役効率を高めるため、Na+ポンプの転写活性を強化した発現系を構築する。
今年度は、イオンポンプと多剤排出トランスポーターの共役系を用いた実験が進展したため、相対的に精製タンパク質を用いた実験が少なくなった。そのため、タンパク質の大量精製に必要な試薬の使用量を当初想定していたよりも減らすことができた。今後の推進方策で示した実験は、いずれも遺伝子工学実験を含む。そのため、多くの遺伝子工学用試薬を購入する他、トランスポーターの輸送効率を測定するための光学部品の購入、学会出席のための旅費に使用する。
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