研究課題/領域番号 |
16K14050
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
杉本 裕 東京理科大学, 工学部工業化学科, 教授 (20271330)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 二酸化炭素化学固定 / 炭酸エステル / クロスカップリング |
研究実績の概要 |
二酸化炭素を原料化合物の一つとして炭酸ジフェニルを合成するための方法を確立するため、平成28年度は、主として、ナトリウムフェノラートと二酸化炭素との直接的な反応から得られる炭酸モノエステルのナトリウム塩(ナトリウムフェニルカルボナート)とヨードベンゼンとの反応を鈴木・宮浦クロスカップリング反応の条件下にて行った。二酸化炭素(5 MPa)雰囲気下、フェニルボロン酸とヨードベンゼンのクロスカップリング反応が容易に進行する条件やパラジウム触媒の利用では、生成物のほとんどはビフェニルで、望みの炭酸ジフェニルを得ることはできなかった。検討した範囲・内容は、溶媒、反応温度、反応触媒として用いるパラジウム錯体、そして二酸化炭素の圧力であった。 ここで、めざす反応が進行しなかったのは、ナトリウムフェニルカルボナートが生成する段階に問題があると考え、その生成と安定性(寿命)をIRスペクトル測定等の分光学的手法により追跡した。ナトリウムフェノラートと二酸化炭素の反応系を、反応解析IRで直接的かつ経時的に観察したところ、時間の経過とともに、ナトリウムフェニルカルボナートに由来する吸収が観測されたが、他に、サリチル酸ナトリウムの生成を示唆する吸収も見られた。したがって、これまでに試した反応条件では、ナトリウムフェニルカルボナートが生成する反応と同等か、より速く、ビフェニルやサリチル酸塩が生成してしまうため、炭酸ジフェニルの生成に至らなかったのではないかと考えている。 すなわち、望む反応の実現には、より効率よくナトリウムフェニルカルボナートを得ることができる条件の探索と、競合する副反応の抑制が課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二酸化炭素を原料の一つとして炭酸ジフェニルを得る反応経路を三段階と想定して種々の条件検討を行った。 実験を始めた初期には、どのようなパラジウム錯体触媒が適しているかを判断すること(第三段階の反応に相当)に重きを置いて検討を進めていた。ところが、細部にまで観察を行ううちに、問題があるのは、パラジウム触媒が機能する段階(第三段階)ではなく、問題なく進むと想像していた二酸化炭素とナトリウムフェノラートとの反応の段階(第一段階)にあることが疑われ、年度の後半に入ってから、検討内容を一部変更し、第一段階のみを切り出して、詳細なスペクトル測定を実施することとした。 よって、当初の検討内容とは若干異なるものの、まずまずのペースで実験を継続できている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に行った実験の結果から、めざす反応を実現するには、(1) 二酸化炭素とナトリウムフェノラートからのナトリウムフェニルカルボナートの生成速度が遅い、(2) 生成したとしてもクロスカップリング反応の条件下ではナトリウムフェニルカルボナートは安定性に欠ける(寿命が短かい)、(3) 競合する二つの副反応(ビフェニルやサリチル酸塩の生成)を抑え切れていないことが克服すべき課題として挙げられる。そこで、平成29年度は、副反応を抑制する効果的な反応条件の探索と、ナトリウムフェニルカルボナートよりも安定性が高いと考えられる遷移金属アート型錯体と二酸化炭素との反応により得られるカルボキシラート塩の利用を試みる予定である。
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