二酸化炭素を原料化合物の一つとして炭酸ジフェニルを合成するための方法を確立するため、金属フェノラートと二酸化炭素との直接的な反応から得られる炭酸モノエステルの金属塩(金属フェニルカルボナート)とヨードベンゼンとの反応を鈴木・宮浦クロスカップリング反応の条件下にて種々、検討を進めて来た。金属種を前年度の単純なナトリウムカチオンからサレン型配位子を有するナトリウム・1価コバルトアート錯体に変更し、二酸化炭素雰囲気下、フェニルボロン酸とヨードベンゼンのクロスカップリング反応が容易に進行する条件やパラジウム触媒の利用では、望みの炭酸ジフェニルを得ることはできなかった。検討した範囲・内容は、溶媒、反応温度、反応触媒として用いるパラジウム錯体、そして二酸化炭素の圧力であった。 このとき、めざす反応が進行しなかったのは、1価コバルトアート錯体からコバルトカルボナート種を誘導する段階に問題があると考え、その生成と安定性(寿命)をIRスペクトル測定等の分光学的手法により追跡した。ナトリウムコバルトサレンアート錯体と二酸化炭素の反応系を、反応解析IRで直接的かつ経時的に観察したところ、時間の経過とともに、ナトリウムカルボナート種に由来する吸収が観測されたが、反応は定量的ではなく、生成した錯体の寿命も短かった。そこで、コバルトアート錯体の配位子をサレン型からポルフィリン型に変更して、同様の検討を行ったところ、無置換のテトラフェニルポルフィリンではサレン型配位子を用いた場合と、ほぼ同様の結果であったが、周辺にトリメチルフェニル基を有するもので試したところ、これまでにない高い効率と長寿命を実現できた。 最終的な炭酸ジフェニル合成の達成には未だ至っていないが、反応の成否を左右する重要な中間体の効率的な合成法と中間体の安定性について、多くの知見が得られたことは特筆すべき成果である。
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