研究課題/領域番号 |
16K14051
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
金 誠培 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 環境管理研究部門, 主任研究員 (60470043)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 生物発光 / 毒性評価 / 人工化学物質 / 生理活性物質 / バイオアッセイ / 一分子型生物発光プローブ / イメージング / 可視化 |
研究実績の概要 |
再生水の滅菌プロセスにおいては様々な化学物質が産生される。これらは非意図的に産生されるため、明示的に認識されることが少なく、人健康への隠れたリスクとなる。従来の分析法では産生される物質を特定しながら、個別に時間をかけて分析する必要があるため、短時間でリスクの全貌を明らかにすることは困難であった。本研究では、応募者が独自に開発した三つの技術(超高輝度発光酵素、発光可視化プローブ、多チャンネル光検出技術)を発光マイクロスライドに集約・融合することで、再生水中の多様なホルモン様活性物質の有無を迅速かつ網羅的に発色判定し、潜在的な環境リスクを判別する分析法を開発する。 研究期間中、再生水の健康への潜在的なリスクを網羅的に評価するために水再生過程で産生される化学物質による生理活性を発色により評価する。①まず中国の再生水から高速液体クロマトグラフィーにより単離された化学物質の各生理活性を、高感度化した発光プローブを用いて個別に発色評価する。②再生水中のレチノイン酸(ビタミンA)類似体による催奇形性活性に応じて発光する可視化プローブを新規開発する。③分子設計の最適化によりプローブの高感度化を行う。④前記プローブ群をマイクロスライドに集積し多チャンネル光検出機と融合して発色判定できるようにする。 この研究は、今までできなかった再生水中の未知なる化学物質の多様な生理活性(男性・女性ホルモン様活性、向精神性、細胞毒性、催奇形性)に対してそれらを特異的に検出する発光プローブをマイクロスライド上に設け迅速かつ網羅的な発色判定を行う世界で唯一の試みであり、従来機器分析や免疫測定法に依存してきた再生水のリスク評価のより技術的な飛躍が期待できる研究手法である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該研究は、汚水の再生処理中に産生される未知の化学物質の多様な生理活性(男性・女性ホルモン様活性、向精神性、細胞毒性、催奇形性)を網羅的に評価する発色判定手法の開発を目的とする。当年度には、この目的を達成するために、環境汚染の深刻な中国の汚水再生に焦点を合わせて生理活性評価実験を進めてきた。当該年度中、中国・清華大学環境学部の先生のご協力を得て、当研究者が直接中国に渡り、(1)実際に中国の再生水から高速液体クロマトグラフィーにより化学物質を単離した。また(2)これらの化学物質の各生理活性を、男性ホルモン様活性、女性ホルモン様活性、向精神性活性に分け、その生理活性を既に評価した。(3)その結果、一定の条件においては、化学物質の性ホルモン活性は弱いものの、他のホルモン活性と合わせられると、シナジー効果を引き起こすことを発見した。 これらの成果は、再生水中の化学物質の生理活性において、今まで分からなかったホルモン様活性の有無について一定の暫定的な結論を示すものであり、当該研究の方向性の正しさを裏付ける結果であった。 これらの成果の一部は、Methods Mol Biolなど、複数の雑誌に既に発表または投稿準備中であることから、当初、成功可能性が分からなかった研究目標に対し、その目標を上回る成果であると自評する。
|
今後の研究の推進方策 |
今回、再生水中に産生された化学物質の生理活性の発色評価という当初の目標が達成できたことを踏まえ、今後の研究目標を以下に定めて実施する:(1)発色評価に用いる発光プローブの性能改善と高速スクリーニングへの応用可能性を検討する。(2)再生水中の化学物質による内分泌撹乱性の全容解明に資する研究を行う。例えば、再生水中の化学物質による生理活性が、性ホルモン活性に限定されるものは、向精神性(ストレスホルモンcortisol)、細胞毒性(cytotoxicity)、発生毒性(developmental toxicity)も併せ持つかについての綿密が検討が必要である。(3)再生水中のレチノイン酸(ビタミンA)様化学物質によって胎児奇形が引き起こされる恐れがあることから、その発色判定を可能とする新規可視化プローブを開発し、当該発色評価の守備範囲を更に広める。また、そのために必要な研究課題を解決する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該研究は、再生水処理中に産生される化学物質の生理活性に関する研究である。次年度使用額が生じた最も大きい原因としては、中国・清華大学の研究サンプルを用いる研究において、先方の都合により、その訪問・共同研究実施が年度末に見合わせたことが一因である。また、今年度の当該研究を達成するために、所属部門の内部研究資金による支援があったことも、研究費を節約できた原因の一つである。
|
次年度使用額の使用計画 |
当該研究目標を達成するために、当該科研費に加え、内部研究資金を併用して研究を実施する予定である。今回の次年度使用額は主に人件費に充てることで、当初の研究目標を円満に達成できるように努める予定である。
|