研究課題/領域番号 |
16K14052
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 一永 東北大学, 工学研究科, 准教授 (50422077)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 機能性酸化物 / 破壊じん性の向上 / 高温 / 酸化 / ナノポーラス構造 / 還元 |
研究実績の概要 |
本研究は、耐熱性・耐環境性・耐薬品性・寸法安定性・耐摩耗性等に極めて優れた特性を有する機能性酸化物材料の超高じん性化を実現するための基礎研究である。 セラミックスをはじめとする機能性酸化物材料は優れた特性を有しながら、じん性の低さから構造材料としての利用は多くされていない。一方、我々は混合導電性材料を中心に電子構造を制御することでじん性が向上することを明らかにしている。ただし、理論上大きなじん性向上を期待することは困難であり、新たな方法論の構築が急務であった。その中、九州大学の石原らが燃料電池用に開発したナノポーラスNi-Feが我々の材料コンセプトと合致し、評価を行った。高温還元雰囲気では予想どおりNi-Feは一般的な金属材料同様、大きな延性挙動を示した。一方、酸化環境でのNi-Fe酸化物は我々の当初の予想を大幅に上回るNi-Feよりも大きな延性挙動を示し、その有用性を示した。 この現象がナノポーラスによる構造因子によるものなのかそれとも材料の組み合わせによる材料因子によるものなのかを見極めるため、一般に製造される溶解鋳造法で作製したNi-Feとの比較を行った。結果、溶解鋳造法による方法では現れない延性挙動を示し、この現象がナノポーラスによる構造因子が起因していることが明らかになった。そこで、SEM, TEM, BET, ディラトなどの方法を用いてナノポーラス構造の微細構造を解析した。SEM等で観察されたμmレベルのポアに加えて表面をnmクラスのポアが覆っていることが新たに明らかになった。ガスはそのナノポアを通り流れることも明らかになった。本当に構造因子が原因でセラミックスの超延性化が引き起こされるのかを特定するための解析を計算科学を用いて今後検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初の予定どおり、Ni-Fe材料を用いてセラミックスの高じん性化へ向けた予備的試験を行うことができた。当初の予定では多少の延性化は期待されていたが、我々が開発した複合環境制御評価装置を用いた評価によって金属状態よりもセラミックス状態(酸化状態)のほうが大きく延性化が進むことを明らかにしたことは特筆すべき点である。また、溶解鋳造法で作製した同じ組成のNi-Feと比較して全く反対の結果が出たことは、材料起因の変化ではなく構造に起因した延性化を明らかにしたことは成果としては極めて大きい。また、酸化・還元サイクルを複数回行い、大きな挙動の変化がないことがわかり繰り返し環境変化による劣化が著しく少ないことも明らかにした。材料起因でなく構造起因によるじん性向上が明らかになれば様々な材料で応用される可能性を秘めており今後の研究に大きな影響を及ぼす可能性がある。そのため当初の計画以上に進展していることとした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ナノポーラスNi-Feと溶解鋳造法で作製した同じ組成のNi-Feの変形挙動を評価することで構造因子による延性化メカニズムを提唱した。 一方、定性的には説明できるものの、なぜ、粒子表面に多数存在するナノポーラス構造が延性化に寄与するのかは全くわからない。そこで、これまでの、SEM, TEM, BET, ディラト等の観察方法で得られた構造情報だけでなく分子動力学や第一原理計算を用いた計算科学アプローチによる変形挙動メカニズムの解明を目指す予定である。 また、これまで我々が行ってきた混合電子構造も併用することでより大きなかつ様々な材料への応用ができる材料開発指針を作り上げたいと考えている。具体的な材料としてセリア系、ランタンコバルト系、Ni系、鉄系の材料についてより詳細に検討していきたい。また、ナノポーラス構造を上述した材料系に適用できるのか、ナノポーラス構造を有することで他の機能性が失われたり発現したりしないのかも含めて総合的に検討する予定である。 実験で得られた結果と計算科学で得られた結果を組み合わせて構造ならびに材料因子を組み合わせた材料開発を行い、世界に類を見ない超高じん性セラミックスの創成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は九州大学の石原教授らが開発した材料を元に実験を行ったため、当初、計上した試料作製のための消耗品を購入する必要がなくなった。また、実験に注力したこととTV会議システムを活用した打ち合わせを行うことで計上した旅費も大幅に削減することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は九州大学の石原教授のレシピを参考に我々独自の試料を作製するために多くの消耗品が必要となる。また、得られた研究成果を海外をはじめ多くの学会に発信するため旅費も必要となる。加えて、実験だけでなく大型計算も必要となるため計算機費用も使用予定である。
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