研究課題/領域番号 |
16K14053
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
狩野 直和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (00302810)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | リン / ホウ素 / 水素 / 結合 |
研究実績の概要 |
今年度は目的とする水素貯蔵物質の前駆体として、炭素原子をリン原子との結合部位にもたず、脱離可能な二座配位子をリン原子上に有する超原子価5配位リン-ホウ素結合をもつ化合物を合成した。リン原子の5配位超原子価状態を安定化するためにリン原子上に導入する二座配位子として、カテコール、ピナコール、N-アルキルアミノフェノールに由来する配位子を検討した。その結果、N-アルキルアミノフェノールが最適であることが判明し、以降の検討ではリン原子上の配位子を固定して検討を行った。リン原子上に二組の二座配位子と水素原子を有するヒドロホスホランにLiTMPを反応させ、超原子価リンアニオン種を調整した。引き続き、種々のホウ素試薬に対する求核付加反応をおこなうことで、リン-ホウ素結合の形成を試みた。ルイス酸性が高くないホウ素化合物を用いた場合は結合形成反応が進行しなかったが、ルイス酸性の高いホウ素試薬を用いた場合は反応が進行し、目的とする超原子価リン-ホウ素結合をもつ化合物が合成できた。特に、BH3・THFを用いることでホウ素原子に三つの水素原子をもつアニオン性リン-ホウ素結合化合物を合成できた。ホウ素原子上に三つのペンタフルオロフェニル基をもつ生成物の構造はX線結晶構造解析により決定し、リン原子が三方両錐構造をとり、ホウ素原子が歪んだ正四面体構造をとることを明らかにした。リン-ホウ素結合長は一般的な単結合長とほぼ同程度であった。溶液中の構造と性質について知見を得るために、11B NMRおよび31P NMRスペクトルを測定したところ、それぞれの原子の配位数および置換基原子の電気陰性度を反映した化学シフト値が観測された。11B核と31P核の結合定数J値は十分に大きく、リン-ホウ素結合のs性が高いと評価できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画の通りに、目的とする超原子価リン-ホウ素結合化合物を合成した。未知の結合を含むために不安定であることが懸念されたが、リン原子の超原子価状態を安定化する二座配位子を種々検討した結果、目的化合物を安定に合成することができた。また、ホウ素原子上に三つの水素原子を有する誘導体の合成にも成功した。さらに、多核NMRスペクトル測定によって、結合のs性の大きさという結合の性質の一端を明らかにすることが出来た。また、当初は平成29年度に実施予定であったX線結晶構造解析も行うことが出来た。このような研究成果を踏まえると、平成28年度の研究は、おおむね研究実施計画の通りに進行していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究が研究実施計画の通りにおおむね進行していることをふまえて、平成29年度も研究計画通りに研究を遂行する。前年度に合成したリン-ホウ素結合をもつ化合物について、熱化学測定や電気化学測定を行い、化合物の特性をさらに明らかにする。次に、加熱、遷移金属錯体触媒との反応、frustrated Lewis pair(FLP)との反応により、水素を発生させる。水素発生量が最大となるように、反応条件を検討する。水素発生の反応条件を最適化し、水素貯蔵材料としての可能性を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年に実験室の火災が発生し、化学合成用実験室が焼失した。そのため、実験の遂行を一時的に中断せざるを得なかった。研究を中断せざるを得なかった期間は当初予定していた物品の発注をおこなえなかったため、当初計画よりも物品の発注が少なくなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の次年度使用額として生じた分については、平成29年度分として請求した助成金と合わせて、主に化学薬品、実験用器具の消耗品として使用する予定である。
|