前年度までに合成した超原子価リン-ホウ素結合をもつ化合物のうち、ホウ素原子上に水素をもつ化合物からの脱水素化を検討した。前年度までに、ホウ素原子上に三つの水素原子をもつ化合物から脱水素化を行うと、二重環拡大反応を伴う水素原子の転位が進行することがわかっているため、その生成物から種々の脱水素化を試みた。強塩基である水素化カリウムを作用させることで、リン原子上の水素原子は脱プロトン化することができた。ホウ素原子上の水素原子は、トリチルカチオンを使うことで脱ヒドリド化できたが、ヒドリド引き抜き試剤の対アニオン部分から塩化物イオンを引き抜く副反応が進行した。そこで、リンとホウ素にそれぞれ結合した二つの水素原子をともに引き抜くため、触媒量のロジウム錯体を用いて水素分子の脱離を行ったところ、水素ガスの発生が観測され、高収率で脱水素化が不可逆的に進行することを見出した。脱水素化の結果、縮環型ホスフィンボロナートエステルが生成した。生成物の構造はX線結晶構造解析により明らかにすることが出来た。縮環骨格に組み込まれた結果、脱水素化前と比べてリン-ホウ素結合長が有意に短縮していることがわかった。縮環型ホスフィンボロナートエステルはFLPとしての反応性が期待されたが、水素分子を作用させても反応しなかった。以上のように、元はボランに含まれていた水素原子を、超原子価リン-ホウ素結合化合物を経ることで、ヒドリドおよび水素分子として取り出すことができた。
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