研究課題/領域番号 |
16K14071
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藪 浩 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 准教授 (40396255)
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研究分担者 |
松尾 保孝 北海道大学, 電子科学研究所, 准教授 (90374652)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | バイオミメティクス / ブロック共重合体 / メタマテリアル / 銀ナノ粒子 / カテコール |
研究実績の概要 |
カテコール基含有モノマーの前駆体であるジメトキシスチレンとスチレンを可逆的付加開裂連鎖移動(Reversible Addition-Fragmentation Transfer, RAFT)重合を用いて重合し、ポリ(ジメトキシスチレン-ブロック-スチレン)共重合体を得た。種々の共重合比を持つブロック共重合体を合成した。三臭化ホウ素を用いて脱保護を行い、ポリジメトキシスチレンをポリビニルカテコールに変換を行った。 得られたブロック共重合体のテトラヒドロフラン溶液あるいはトルエン/メタノール混合溶液を基板上にキャスト製膜した。X線小角散乱(SAXS)により、周期構造を測定したところ、テトラヒドロフラン溶液からキャスト製膜したフィルム内部には、基板に平行なラメラ相が形成されていることが示唆された。また、四酸化オスミウムによりポリビニルカテコール相を染色した後、内部の相分離構造を透過型電子顕微鏡で観察を行ったところ、基板に対して平行なラメラ相や球状のドメインが形成されていることが明らかとなった。 ラメラ状の相分離構造を形成したポリ(ビニルカテコール-ブロック-スチレン)共重合体フィルムを硝酸銀水溶液に5~10分浸漬したところ、透明なフィルムが次第に褐色に変色した。紫外-可視分光によりフィルムの光吸収を測定したところ、銀ナノ粒子の形成を示唆するプラズモン吸収に相当する吸収帯が観察された。内部に形成された相分離構造を元のフィルムと同様の手法で観察を行ったところ、ポリビニルカテコール相に選択的に数ナノメートル程度の銀ナノ粒子が形成されることを見いだした。 以上の結果から、カテコール基を含むバイオミメティックブロック共重合体の合成に成功し、ポリビニルカテコール相に選択的に金属ナノ粒子が形成されることが明らかとなった。 また、コロイド結晶を鋳型としたポリビニルアルコール逆オパールを作製した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
年次計画によれば、今年度は(1)バイオミメティックカテコール含有ブロック共重合体の合成、(2)コロイド集積体の形成、および(3)包埋・鋳型粒子除去による逆オパールの形成を目標とした。進捗に記した通り、本年度はバイオミメティックカテコール含有ブロック共重合体の合成に成功し、コロイド結晶を鋳型としたポリビニルアルコール逆オパールの作製にも成功している。以上の結果から今年度の達成目標は十分達成しており、計画に付いてはおおむね順調に進展していると言える。 一方で、得られたバイオミメティックカテコール含有ブロック共重合体はメタマテリアル以外にも、弱酸性のカテコールを側鎖に持つブロック共重合体のラメラ相を持つフィルムのプロトン伝導率は1/100000 S/cm程度であったのに対し、ラメラ相を形成したフィルム中に銀ナノ粒子を導入した場合、プロトン伝導性が10倍に上昇する現象を見いだした。本成果は新しいポリマープロトン伝導体の設計指針を示している。 また、リガンド交換などにより磁性粒子を本ポリマーで被覆すると、最表面がポリスチレンとなるポリマー被覆磁性ナノ粒子が得られ、本ポリマー被覆磁性ナノ粒子は多様なポリマー材料に混和させる事が可能であることを明らかとした。フィルムだけでなくポリマー微粒子中にポリマー被覆磁性ナノ粒子を導入する事にも成功した。 これらの成果を基に論文3報(出版済み2報、印刷中1報、国際共著論文1報)を報告している。このような展開は当初の計画では予測していない結果であり、当初の計画をを大幅に上回る成果である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は以下の項目について検討を行う。 ブロック共重合体の配向制御:昨年度合成したバイオミメティックブロック共重合体を有機溶媒に溶かし、作製した逆オパールへキャスト製膜することにより導入する。ブロック共重合体を溶解し、鋳型の逆オパールを溶解しない溶媒の船底、およびキャスト製膜の際の雰囲気・温度を制御することで、均一にブロック共重合体を空孔中に導入する。 金属ナノ粒子アレイの形成:可視光に共振周波数を持つ金属共振器を作製するためには、可視光においてプラズモン吸収を持つ金属が最適である。そこで銀あるいは金イオン溶液に(4)で作製したブロック共重合体集積体を浸漬し、銀あるいは金ナノ粒子のIn Situ合成を行う。作製したナノ粒子の構造は現有のTEMとエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて測定を行い、イオン濃度、浸漬時間などを変えることによるナノ粒子のサイズ・構造・配列に与える影響を検討する。 光学特性評価:作製した金属ナノ粒子アレイの光学物性は、現有の分光エリプソメータおよび申請の偏光子を取り付けた可視分光光度計により複素屈折率を測定する。ブロック共重合体の相分離構造は集積の過程で特に外場を与えなければ配向しない。従って形成された金属ナノ粒子アレイは等方的な構造を持っているため、角度依存性の無い、メタマテリアル物性の発現が期待される。光学物性と現有のマルチシミュレーションソフトウェア(COMSOL)によるシミュレーションを行い、ナノ粒子アレイにおける電磁場の状態について、実験結果と理論値との相関を明らかとする。
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