研究課題/領域番号 |
16K14075
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
芹澤 武 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (30284904)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | セルロース / 酵素合成 / 構造体 |
研究実績の概要 |
C末端に6残基のヒスチジンが導入された、Clostridium thermocellum YM4由来のセロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)を大腸菌により発現させた後、大腸菌を破砕し、遠心分離により酵素懸濁液を得た。これをニッケル-ニトリロ三酢酸カラムを用いて精製し、高純度のCDPを調製した。 α-グルコース一リン酸をモノマー、アルキルβ-グルコシドをプライマーとして、調製したCDPを用いて還元末端がアルキル化されたセルロース誘導体を緩衝液中で酵素合成した。この際、プライマーのアルキル基の炭素数を1から8まで変化させ、得られる生成物の溶液状態や形態に加え、セルロース部位の平均重合度、重合度分布、結晶構造などの構造特性を評価することにより、アルキル化セルロースの分子構造や集合構造に対するアルキル鎖長の効果を系統的に検討した。炭素数1から5の場合には反応液はゲル化し、生成物はよく成長したナノリボンからなるユニークなネットワーク構造を形成した。一方で、炭素数6から8の場合には生成物の水分散液が得られた。この際、炭素数6の場合にはらせん状のナノロッドを、炭素数8の場合には不定形のナノシートをそれぞれ形成した。また、セルロース部位の平均重合度はアルキル基が長くなるにつれて小さくなる傾向にあり、例えば、炭素数1の場合の約10から炭素数8の場合の約7まで変化した。なお、それぞれのセルロース部位が所定の重合度分布を示した。一方、セルロース部位は、炭素数1から5の場合に逆平行鎖のセルロースII型を、炭素数6から8の場合に平行鎖のセルロースI型の結晶形を形成した。なお、プライマーの臨界ミセル濃度を評価した結果、ミセル形成の有無が結晶形を直接、決定している訳ではなかった。 このように、セルロースに導入するアルキル基の長さによって、酵素反応により得られる生成物の溶液状態、セルロース部位の重合度や結晶構造、集合形態が変化することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に従って調製した酵素と、アルキルβ-グルコシドをプライマーとして用い、今後の基準となる重要な実験系であるアルキル化セルロースの酵素合成を予定通りに実施できた。これにより、生成物の溶液状態、セルロース部位の重合度や結晶構造、集合形態に与えるアルキル鎖長の効果について、興味深い知見を得つつあるため、おおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
酵素反応により得られるセルロース誘導体の構造形成に及ぼす置換基の効果について系統的な知見を得るために、引き続きさまざまな置換基が導入されたグルコース誘導体をプライマーとして酵素合成する。また、得られた構造体の物性や機能についても同時に検討し、新規なセルロース材料の創製に向けた基盤を構築していく。
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