研究課題
前年度に、セロデキストリンホスホリラーゼ(CDP)を用いるセルロースオリゴマーの酵素合成において、反応の起点(プライマー)であるグルコース誘導体のアノマー位に導入するアルキル鎖長が比較的短い場合に(炭素数で2から4程度)、セルロースII型結晶を有するナノリボンネットワークで構成されるハイドロゲルが得られることを見出した。この新規なセルロース系ハイドロゲルに反応性基を導入し、自在に機能化することを目指し、アノマー位にエチル基を介してアジド基が導入されたグルコース誘導体である2-アジドエチル-β-D-グルコピラノシドをプライマーとして、セルロースを酵素合成した。その結果、この新規なプライマーがCDPにより認識されることでアジド基を有するセルロース系ハイドロゲルが酵素合成でき、また、クリック反応により、ハイドロゲルをポスト機能化できることを見出した。また前年度に、グルコースプライマーのアノマー位に導入するアルキル鎖長が比較的長い場合に(炭素数で6から8程度)、セルロースI型結晶を有するナノロッドや不定形ナノシートが得られることを見出した。これらの構造体を引き続き構造解析した結果、脂質集合体によく見られる二分子膜構造を基本単位として、それらの構造体が構築されていることが分かった。得られた構造体が脂質集合体と同様の特性を示す可能性があると予想し、水分散したオクチルβ-セルロシドの水面上に対する単分子膜(いわゆるギブス単分子膜)の形成について評価した。その結果、結晶化した固体状の水分散液であるにも関わらず、経時的に高密度な水面単分子膜を形成すること、また、それらの水面単分子膜が通常の脂質単分子膜とは比較にならないほどの高い力学強度を有することを見出した。このように、酵素反応により合成されるセルロース誘導体の構造形成や機能化に関するこれまでに例のない基礎知見が得られた。
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