研究課題/領域番号 |
16K14077
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
金子 達雄 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (20292047)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゲル / 多糖 / ラン藻 / 分子配向 / XRD / 偏光顕微鏡観察 |
研究実績の概要 |
異方性ゲルは生体ゲルのように配向構造を有しており、異方化は機能を特定の方向に集約するのに有効である。そこで、研究代表者らは巨大剛直分子が極低濃度で自己配向を示す結果を見出してきた。本研究では、この結果を基に化学架橋の反応性を制御することで等方性ゲルを分子配向ゲルへと変換し、コイルバネのように一方向のみに膨潤するゲルを開発すること目的として研究を進める。昨年度までに、マイクロ分子鎖であるサクランの水溶液に細胞破砕用超音波プローブを挿入し、分子量が2000万から57万程度にまで減少する条件を見出した。また面内配向フィルムのネットワークに予め架橋剤を含有させた結果、乾燥状態の構造が架橋により固定された。また、これを膨潤させて得たゲルを再乾燥することで面内配向ゲルが得られることが分かった。 本年度は、分子配向ゲルの異方性を定量化するために、X線散乱イメージング法でフィルム面側とフィルムのエッジ側での分子配向度を定量化しようと試みた。その結果、小角X線では特定の異方性の証拠となる結果が得られなかったが、広角X線回折法においては、エッジからのX線イメージングのみにおいて、水分子がサクラン分子鎖に平行に配向する現象が観察された。また偏光顕微鏡観察において鋭敏色板を導入した際に加色および減色方向が特定され、サクラン分子鎖がフィルム状ゲルに対し面内配向していることが判明した。さらに、ゲルの静的力学試験を2方向で行うことで、弾性率に異方性があることが判明した。次に、膨潤度と弾性率の値からみかけの架橋点間分子量を算出し、ゲルの架橋点間距離を定量化した。以上によりゲルの構造的異方性を明確にした。 今後、外部刺激によりアコーデオンのように厚み方向のみで伸縮する物質放出異方性を見出す。これは、新しいドラッグリリース剤の開発につながるだけでなく、生体ゲル内部の物質移動に関する重要な知見を与えるであろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子配向ゲルの構造的・機能的異方性の定量化を行うために、X線散乱イメージング法でフィルム面側とフィルムのエッジ側での分子配向度を定量化しようと試みた。その結果、小角Xイメージングでは特定の異方性の証拠となる結果が得られなかったが、サクラン水溶液に超強力放射光を照射することで分子鎖が凝集構造を持つことが見いだされた。同時に、広角X線回折法においては、エッジからのX線イメージングのみにおいて、水分子がサクラン分子鎖に平行に配向する現象が観察された。これは、基本的にランダムな運動性を示す水分子が強くサクラン分子鎖にトラップされていることを示唆し、それが一定の方向に強制的に配列させられていることを示している。水のゲル内における一軸配向現象は本研究以外に報告例が見つかっていない。この異方性を光学的に検出するために偏光顕微鏡観察を行った。直行偏光板に対し互いに45度の方向に鋭敏色板を導入した際に加色および減色方向が特定され、サクラン分子鎖がフィルム状ゲルに対し面内配向していることが判明した。さらに、ゲルの静的力学試験をゲルのエッジ方向と上下面方向において行うことで、弾性率に異方性があり、エッジ方向に関し硬いゲルとなることが分かった。これは面内配向しているという構造的知見と良く合う。次に、膨潤度と弾性率の値からみかけの架橋点間分子量を算出し、ゲルの架橋点間距離を定量化した。以上によりゲルの構造的異方性を明確にした。
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今後の研究の推進方策 |
物質輸送および物質放出に注目した新機能分子配向ゲルの作製を行うために、pHの変化や非溶媒であるアセトンなどを添加する、塩添加するなどの方法で、ゲルの伸縮を誘導すれば、アコーデオンのように厚み方向のみで運動が見られると考えられる。この伸縮異方性を明確にし、収縮にともなう物質放出異方性を見出す。具体的には、事前に内包させた色素の放出量と体積収縮率との相関を明確にするとともに、色素放出を定量化することで、異方的物質輸送の評価を進める。当該マイクロ分子はポリアニオンであるために、カチオンの吸着や物質移動制御の効果を持つと考えられる、そこで水素イオン濃度をpHで調整し、かつ各種アルカリ金属イオンを分子配向ゲル内に添加し、各方向における低周波誘電緩和測定を行うことで、イオンの運動性を定量化する。同時に、それぞれの方向における分子の輪郭長を計算することで、見かけの分子形状の差異からマイクロ分子のゲル内における配向状態を明確にする。この結果を受け、色素型薬剤を用いて、物質移動および拡散を共焦点レーザー顕微鏡で可視化する。これにより当該分子配向ゲルの異方的物質輸送機能を明らかにする。以上の結果は、新しいドラッグリリース剤の開発につながるだけでなく、生体ゲル内部の物質移動に関する重要な知見を与えるであろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
RA雇用が行うことが出来たため多くの知見を得ることが可能となり、学外との打ち合わせを行うための旅費を使用する必要がなくなった。これにより差額が残額として生じた。これは来年度の成果報告旅費に使用する予定である。
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