異方性ゲルは生体ゲルのように配向構造を有しており、異方化は機能を特定の方向に集約するのに有効である。研究代表者らは極低濃度で自己配向を示す巨大剛直分子サクランを用いて分子配向ゲルの作成を行ってきた。本年度は物質輸送および物質放出に注目した新機能分子配向ゲルの作製を行うために、pH変化、非溶媒添加、塩添加などの外部刺激を用いてゲルの伸縮を誘導させた。結果としてpHを上昇させることでゲルは厚み方向のみに膨潤し、アセトンなどの非溶媒を加えると反対に収縮する現象を見出した。塩化ナトリウムなどの塩を加えると収縮する現象がみられたが、この場合は収縮と同時に軟化する現象が見出された。これは一般常識とは逆の現象で塩添加により架橋点が破壊された可能性が指摘される。いずれにせよ各刺激によりアコーディオンのように一方向に伸縮することは確認できた。低周波誘電緩和測定によりサクランが極めて低い濃度で絡み合いを起こすことや3.4~ 4.7マイクロメートルという長い輪郭長を持つこと、およびカウンターイオンであるアルカリ金属イオンがサクラン分子鎖に沿って移動するモードが確認できた。したがって、サクラン分子鎖が面内配向した本ゲルにおいてカウンターイオンは厚みとは垂直の方向に運動していると考えられる。そこで、事前に内包させた食紅の異方的放出を調べた。異方性を調べる際にバースト的に放出される現象がみられ、円筒状のゲルの上下面よりも横面からの色素放出が優先的に行われることが判明し、異方的物質輸送が起こることが確かめられた。以上の結果は、新しいドラッグリリース剤の開発につながると期待する。
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