これまでに膜表面に対して平行ならせん軸をもつコレステリックエラストマーを作製し,その局所配向および温度変化によって誘起される周期的な表面凹凸を調べてきた。局所ダイレクターが膜に垂直に立っていれば当該箇所のレターデーションはゼロのはずであるが,作製膜の当該箇所のレターデーションはかなり大きい有限値を示し,ダイレクターは垂直配向よりもかなりずれていた。また,表面凹凸は示すもののその高低差は,マクロな垂直配向をもつネマチックエラストマーの熱伸縮から期待される大きさよりもかなり小さく,垂直配向の局所ダイレクターが欠損していることを裏付けた。 この問題を解決するために,作製時のキラルドーパント濃度を変化させ,コレステリックエラストマーのらせんピッチを幅広く変量し,局所ダイレクターの配向解析を行った。従来試料のらせんピッチは100マイクロメートルを超えていたが,らせんピッチを数十マイクロメートルまで減少させると,かなり垂直に近い局所ダイレクターをもつコレステリックエラストマーとなることがわかった。実際,この当該箇所の局所配向度は,マクロに垂直配向をもつ試料の配向度とほぼ等しかった。このコレステリックエラストマーの表面凹凸の規模は先行試料の2倍以上大きくなり,局所配向度の増加を裏付ける結果となった。さらに,コレステリックエラストマーをダイレクターが徐々に回転していくプラナー配向の積層体とみなしたモデルを構築し,巨視的な垂直配向試料の熱伸縮データを用いることにより,実際の表面凹凸の温度応答挙動との比較を試みた。モデルは実験結果をうまく再現しており,積層体モデルを用いることにより,巨視的な垂直配向試料の熱伸縮データがあれば,コレステリックエラストマーの表面凹凸の熱応答挙動が定量的に予測できることがわかった。
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