研究課題/領域番号 |
16K14086
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大谷 文章 北海道大学, 触媒科学研究所, 教授 (80176924)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光触媒反応 / 光強度依存性 / 酸素生成反応 / 多電子移動 |
研究実績の概要 |
小粒径のルチル型酸化チタン(粒径:13 nm)をもちいる反応系について,集光光源であるNSL光源照射下における検討をおこなった.いずれの電子受容体(IO3-,Fe3+)をもちいた場合でも,しきい値である光強度をさかいに低光強度領域では反応速度が光強度の二次,高光強度領域では一次の依存性をしめし,それぞれの近似曲線が実際の結果をよく再現した.得られた二次の依存性より,光触媒酸素生成反応が量論反応である4電子移動反応(+ 1.23 V)ではなく,2電子移動反応(+ 1.23 V)により進行していることが示唆された.一方,IO3-を電子受容体とするNSL光源照射条件下の小粒径のアナタース型酸化チタン(4.4 nm)をもちいる反応系において,低強度領域では,ルチル型と同様に光強度にたいして二次から一次へ光強度依存性の次数の変化が観測された.さらに約270 mW以上の高光強度領域では,四次の依存性に相当する高次の依存性が観測された.いっぽう,非集光光源であるHMP光源照射下では,低強度領域における二次から一次へと次数が変化する様子が観測されたものの,高光強度領域ではNSL光源照射下における四次の依存性は見られなかった.そこで集光の有無による光強度依存性への影響について,各光源における照射面積(1 cm2)中の照射光強度の分布を解析した上で,実際に光触媒反応が進行している面積(実照射面積)を算出し,図1の光強度および反応速度に割り付けることによって光源の違いを補正した.その結果,NSL光源における四次の依存性は集光により粒子中に高密度で正孔が生成したことによる4電子移動反応に由来することが示唆された.したがって,多電子移動反応における反応速度および反応機構が照射光強度および照射面積にたいする入射光子密度につよく依存することが見出された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画である,高強度連続光源をもちいてヨウ素酸あるいは鉄(III)イオンを電子受容体とする酸素生成反応を行い,多光子吸収条件での真の活性が高い光触媒を選定するという目的を達成した.
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今後の研究の推進方策 |
(1)初年度にひきつづいて検討を進め,年度前半で水分解反応に最適な光触媒と助触媒の組みあわせを選択する.また,さらに酸素生成用の助触媒の担持についても検討する.これまでコバルト酸化(CoOx)などが酸素発生を促進することが報告されており,酸素生成の活性化エネルギーを下げるといういわゆる触媒作用によるものと考えられている.しかし,ここまで述べてきた申請者らの光強度依存性解析の予備検討結果にもとづいて考えれば,2電子(正孔)反応において,2個の正孔が蓄積した粒子(TiO2*)からの反応(速度定数k)の促進という触媒作用以外に,1つめの光子(hν1)で生じた正孔の寿命(τ)を増大させる可能性もあり,反応機構の観点からも興味深い.上記の速度論モデルにもとづいて速度式を導くと低強度側で二次,高強度側で一次となる実験結果を再現でき,しきい強度は,2つめの光子の吸収効率(ψ'),電子受容体への電子移動効率(φ)および正孔の寿命(τ)の積の逆数(1/ψ'φτ)となってk(2個の正孔が蓄積した粒子からの反応速度定数)とは無関係である.したがって,しきい強度をもとめることによって酸素生成助触媒の作用機序を知ることが可能であると期待される. (2)ここまでの光触媒設計・調製と光強度依存性解析の結果にもとづいて,(a)光強度依存性が四次から一次に移行するしきい強度以上の光強度(光子密度)の照射を,(b)しきい強度以上における一次依存性のプロットの傾き,すなわち,みかけの量子効率がもっとも高い光触媒の懸濁液に対して行う.さらに,この系を実用化するため,プロセス工学的に最適化をはかる.たとえば,太陽光をふくむ通常の連続光源からの光の集光による高密度化,生成気体の効率的捕集あるいは懸濁状態の安定化などである.このうちとくに集光による高密度化は重要であり,実用化の鍵となるものと思われる.
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次年度使用額が生じた理由 |
継続的に年度をまたいで使用する少額の物件費の事務処理が次年度になったため.
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次年度使用額の使用計画 |
継続的に年度をまたいで使用する少額の物件費として使用する.
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