化学強化ガラスの性能向上や加工・評価技術の問題解決に向けた研究開発が広くおこなわれており,強度を支配する深さ方向の短・中距離構造分布を知ることはガラス物理の観点からも重要である.本研究では,スマートフォンや太陽電池カバーガラスなどに利用される化学強化ガラス,およびその他応用上重要なケイ酸塩ガラスに対して,X線回折(XRD)およびラマン散乱測定を適用することで,ガラス材料への力学特性や機械強度の新規分析技術開拓および原理実証を研究課題とした. これまでに,現行の化学強化ガラスの強化前後において,SiO4四面体の振動に関与するラマンピークが強化処理によって高波数へシフトすることを見出している.赤外光であるCO2レーザーを強化後試料へスキャン照射することで,照射領域におけるラマンピークの低波数シフトを確認した.また,通常の強化ガラスでは,大きな内部応力による破壊によって機械的加工が困難であるが,レーザースキャン領域に沿ってローラー型ガラスカッターで切込みを導入後,二分割することに成功した.このように化学強化ガラスへのレーザー照射による局所的な易加工化および易加工領域の非破壊的検出を実証した.さらに,易加工化によりラマン散乱測定で観測される欠陥構造に由来するD2ピークとガラスの不均一性を反映するボソンピークに特異なふるまいが見られた.これに関し,強化前後におけるガラスの短~中距離構造に着目することで,強化現象の本質を理解できるものと期待される.
|