本研究は、ケイ酸が濃縮された場である“silicon pool”を活用する新規概念に基づき、常温・常圧・中性pHで高度に構造制御されたシリカを得る生物模倣合成法を実証することを目的とした。 平成29年度までに、ケイ酸を濃縮して“silicon pool”を形成するペプチドP1、およびP1と複合化して鋳型構造を形成しつつ、ケイ酸の重縮合反応を触媒するペプチドP2を独自に開発し、ケイ酸溶液に段階的に添加してシリカを合成した。得られた析出物の透過型電子顕微鏡像では鋳型ペプチドのサイズと合致する幅を持つ細孔が観察された。平成30年度は、ラマン散乱法により“silicon pool”を経由した試料は経由しない試料と比べて高い重縮合度を持つことを明らかにした。また、試料を焼成して多孔質シリカを調製し、このシリカの細孔がキラル認識能を持つか調べた。シリカ粉末を、D体およびL体のポリアミノ酸を溶解させた水に分散し、シリカへの各ポリアミノ酸の吸着量を評価した。P1とP2を段階的に添加して“silicon pool”を経由した試料では、L体のポリアミノ酸をより多く吸着したが、無孔質シリカ、およびP1とP2を同時に添加して得た多孔質シリカではD体を多く吸着した。生物模倣合成法により、鋳型ぺプチドの構造がシリカに精密に転写され、キラル認識能を得るに至ったと考えられる。 さらに、上記の研究から得た知見を、高分子を用いたシリカナノ粒子の構造制御へ展開し、リング状のナノ構造を持つシリカの合成へつなげることができた。また、本手法により作製した多孔質シリカの低分子吸着性において予想外の発見があり、さらなる高機能吸着材の創製に向けた指針を得ることができた。
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