研究課題/領域番号 |
16K14091
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
丹羽 健 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (40509030)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 超高圧合成 / 希ガス / 熱電変換材料 / 遷移金属リン化物 |
研究実績の概要 |
本研究課題では超高圧実験手法を用いて新規な熱電変換材料の合成を目的にした.熱電変換材料として電気伝導性が高く,熱伝導性が低い物質が理想となる.その設計指針として,ラットラー効果を利用した熱伝導の低減が重要となる.ラットラー効果とはラットラー(主に周囲の原子と結合していない)が空隙内で振動し散乱による熱伝導が低下する現象を指す.本課題では空隙をもつリン化物に着目し,その中でも比較的容易に合成が可能で耐食性,熱伝導率も高いスクッテルダイト型CoP3を対象とした.また,本研究ではラットラーとして希ガスを候補とした.CoP3をあらかじめ合成しておき,高圧希ガス中で加熱することで空隙への希ガス充填を期待した.そこでまずCoP3の合成に取り組んだ.CoP3は常圧下でも合成は可能であるが,本研究ではピストンシリンダー型装置による高圧下Snフラックス法からCoP3単結晶を育成した.高圧下における単結晶育成では短時間で高品質な結晶が育成できる.本研究でも3時間程度で100ミクロン程度の単結晶育成に成功した.一方,希ガス充填に向けた予備実験として,CoP3に遷移金属を充填する実験を平行して進めた.空隙に充填する元素としてMnを選択した.CoP3は電荷的に他の金属元素を充填することは難しいため,圧力による元素充填を期待した.実験ではMnが2~3at%程度充填されたCoP3の合成に成功した.常圧でも同様にMnが充填されたCoP3の育成を目指したが,Mnの固溶が確認できなかったことから,圧力は元素充填に有効であることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ピストンシリンダー装置の立ち上げとSnを用いたCoP3の単結晶育成まで滞りなく進めることができた.次年度は希ガス冷却装置の開発と充填実験に取り組みAr充填されたCoP3の合成に取り組む予定である.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画2年目はまず前年合成したMnがドープされたCoP3の物性評価をおこなう.磁性元素が空隙サイトに充填されることへの影響をSQUIDなどを用いて調べる.そして本研究課題の当初の目的であるCoP3へのアルゴン充填実験に取り組む.まずアルゴンを冷却固化充填装置を構築する.次に単結晶育成したCoP3をダイアモンドアンビルセル中に液体アルゴンと共に充填し,目的圧力まで加圧してレーザー加熱する.実験は50 GPa程度までを予定している.CoP3はCo-PおよびP-P間の結合に由来したラマンピークが検出される.アルゴンが格子内に充填されれば格子が膨張することでこれらのピークが低波数側にシフトすることが期待される.またアルゴンが規則的に空隙サイトに充填されていれば,X線によりその反射が観測される可能性が高い.一方,スクッテルダイト構造を取る遷移金属リン化物はCoP3以外にも多数存在する.高圧下でアルゴンを充填する場合,空隙に通じる細孔とアルゴン原子の大きさが非常に重要である.細孔が小さすぎると高圧下でも充填は難しい.そこで実験の進行状況によってはもう少し大きな細孔を持つスクッテルダイト型化合物も研究対象に考えている.Pの代わりにSbや4dおよび5dの遷移金属で構成されたスクッテルダイト型化合物がそれにあたる.研究計画最終年でもあるため研究成果は投稿論文や関連学会にて報告する.またHPを通じて広く発信する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画ではピストンシリンダー装置の立ち上げおよび予備実験経費を想定していた.超高圧高温合成実験では,試料加圧部の超硬材に大きな負荷がかかるため,破損による完全な取り換えを視野に入れておく必要がある.また実験を行う際は,試料カプセルやヒーターなど全てのパーツは使いまわしが不可能で,毎回の実験で最初から加工作製する必要がある.しかも高圧下では試料と試料保護カプセルが常圧では想像できない化学反応を起こすこともあり得る.その場合,実験上問題がないか様々な素材で実験を試みる必要がある.今回の実験では高圧下におけるフラックス法の開発ということでそれなりに多くの労力を要したが,ピストンの致命的な破損や試料室構成仕様の変更はなかったため,当初予定していたほど予算が掛からなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
前年度分の予算は本年度のアルゴンガス充填装置の構築にそのまま移行する予定である.アルゴンガスを液化する装置の予算も当初計画で計上してはいるが,予備実験の段階で,もう一段優れた断熱温度制御が必要であることが判明した.アルゴンの沸点は液体窒素温度に近く,冷媒に液体窒素を使うと断熱に具合が不十分な場合,冷却温度に達しない可能性もある.現在,独自に開発したダイアモンドアンビルセルに液体窒素を充填する装置が稼働中ではあるが,それとは別に新たに設計してテストする必要がある.すでに構想して作製に取り掛かっているが,今後のテストによって改良も併せて行いながら装置を完成させる予定である.合成物の評価等々に関しては当初計画通り進むものと考えている.最終年度であるため,投稿論文や関連学会での発表等の予算も併せて計上している.
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