平成28年度において、高温高圧下での固相反応によって得られたペロブスカイト型酸化物CuNbO3が高温で分解し、CuOとAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物CuNb2O6(実際の構造を反映した組成はCu1-xCu3Nb4O12)に変化することを見いだした。この固相反応は新規なものであるため、29年度は反応機構を詳細に調べるとともに、Nbと同じ5族のTaを含むCuTaO3に対しても同様の実験を行った。 Cu-Nb-O系では、常圧での合成ではRbTaO3型構造のCuNbO3が生成し、これを加熱するとCuOとCuNb2O6に分解するものの、後者はコロンバイト型構造をとることが明らかとなった。高圧下と常圧下におけるこのような生成物の相違は加熱前の結晶構造に起因しており、いずれの分解反応も結晶構造を維持したトポケミカル反応であるため、生成物に違いが見られると考えられる。高温高圧合成を経た反応はペロブスカイト型構造を維持して進むものであるが、その際、カチオンである銅イオンが抜けることによって反応が進行している。この種のカチオンの脱離を伴うトポケミカル反応は非常に珍しい現象である。29年度はこれらの固相反応を熱力学的に考察し、それぞれの反応エンタルピーを見積もった。また、Cu-Ta-O系でも同様の現象が観察され、高温高圧下で得られたCuTaO3はペロブスカイト型構造をとり、それを加熱するとCuOとCuTa2O6に分解して、CuTa2O6はAサイト秩序型ペロブスカイト型構造となった。 本研究では当初の目的であるAサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の薄膜成長や熱電変換効率の測定には至らなかったが、Aサイト秩序型ペロブスカイト酸化物の新しい合成プロセスを見いだすとともに、これが非常に珍しいカチオンの脱離を伴うトポケミカル反応であることを明らかにした点では、新規性のある成果が得られたと考えている。
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