研究課題/領域番号 |
16K14094
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
寺西 貴志 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (90598690)
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研究分担者 |
仁科 勇太 岡山大学, 異分野融合先端研究コア, 准教授 (50585940)
岸本 昭 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (30211874)
林 秀考 岡山大学, 自然科学研究科, 准教授 (90164954)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Liイオン電池 / 高速充放電特性 / 酸化グラフェン / 強誘電体 / 分極 / ヘテロ元素 |
研究実績の概要 |
本研究はリチウムイオン二次電池の正極・負極の両者に分極アシスト機構を導入することでLiイオンの拡散速度を相乗効果的に高め,超高速充放電性を付与することを目的としている. 正極には我々がこれまで開発した強誘電体を人工界面とした複合活物質を適用する.これは強誘電体―活物質―電解液三相界面近傍において,強誘電体の分極効果によりLiイオンの拡散促進を図ったものである.負極には,炭素に対して電気陰性度の異なる種々のヘテロ元素をエッジ部にのみ選択置換した酸化グラフェンを用いる.両者を電極材料としたリチウムイオン全電池を作製する.正負両極材料の組成・構造最適化により,最終的に超高速充放電レート100C(=満充放電時間36秒)において50mAh/g(全電池重量ベース)を達成させることを目指す. H28年度は,負極材料の開発に注力した.まず,酸化グラフェンの電池容量特性における酸素担持量依存性について調査した.結果,酸化グラフェン中の酸素濃度が30%近くにおいて電池容量特性が最大化することが分かった.酸素量の増大に伴い,直流導電率は単調に低下する一方で,グラフェンの凝集度が低下することで比表面積は増大する.この2つの効果の重ね合わせにより容量特性が最大となる最適酸素量が決定されたと解釈した.また,酸化グラフェンを出発として出力特性の改善を目指し,ヘテロ元素として窒素を一部炭素に対して置換した材料を合成・評価した.結果,窒素置換試料は置換前に比べ出力特性が大幅に改善されることが分かった.窒素などヘテロ元素置換による分極効果によってLi挿入脱離が円滑化したためと推察した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正極材料については,これまでの検討において,活物質に担持させる強誘電体の組成・結晶化条件は既にある程度最適化できている.また,負極材料についてはH28年度,酸化グラフェンに着目し,そのLi電池容量特性が最大となる最適酸素担持量を決定した.一定の酸素量(約30%)において電気容量が最適化することが分かり,これが導電率と微構造変化の2つのファクターで説明できることが明らかとなった.また窒素などヘテロ元素も出力特性の改善に有効であることが分かった.負極の酸化グラフェンについて,出力特性を改善させるための方向性は得られたため,H29年度中には正極材料の合成プロセス最適化,負極材料の出力特性の改善,ならびに開発した正極・負極を用いた全電池評価まで達成することができると予想する.以上より,これまでのところ研究はおおむね順調に進展していると考える.
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今後の研究の推進方策 |
正極材料については,既に分極効果を効果的に引き出すことができる強誘電体材料をある程度探索完了している.H29年度は,正極材料についてはこれらの材料をベースに,パルスレーザー堆積法(PLD)や原子層堆積法(ALD)法などの気相成膜プロセスを用いて,より微細な強誘電体ナノ粒子の担持を目指す.これにより分極効果を最大限引き出すことで電池出力特性の更なる改善を図る. 一方,負極については,まずは酸化グラフェンへの窒素の置換状態最適化により,出力特性の改善を図る.具体的にはドープさせる窒素の構造を制御(ピリジン,ピロール,グラファイト状など),出力特性が最適となる置換構造を探索する.DFT計算等により,種々のN置換構造をもつグラフェンの電荷状態を計算しつつ,分極率が最大となる構造を推定し,実際の電池出力特性との相関を調査する.また,窒素以外の種々の電気陰性度を有するヘテロ元素(B, F, P)などを炭素に対して置換し,置換ヘテロ元素の電気陰性度と電池出力特性の相関性の有無について調べる.さらにグラフェンシート間にカーボンナノチューブなどのスペーサーを挿入させることで,炭素層間距離を広げLiイオンの拡散を促進する検討も行う. 正極,負極ともに最適化された材料を選択し,最終的に全電池を作製,評価する.リファレンスとなる材料系(正極LiCoO2,負極グラファイト)に対してどの程度の出力改善が得られるかを確認する.
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次年度使用額が生じた理由 |
電池評価・インピーダンス測定に購入予定であった3極式セルが,同研究グループ内の設備のものを共有で使用できることとなり,購入が不要となったため残金が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は正負両極材料のハーフセル評価,全電池評価を中心に行う.新たに電池評価用のセルパーツや電解液やLiフォイルなどがより多く必要となる.H29年度明細に計上していた学会発表旅費や論文投稿料,高純度試薬に加えて,上記電池消耗品の購入に使用する予定である.
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