平成28年度の研究で、フェニル基を持つ有機シランから新規多孔質材料KCS-5を結晶化させることに成功し、このKCS-5が薄膜状のSOD型ゼオライトとフェニル基が交互に積層した構造を持つことを明らかにした。またKCS-5は研究計画時の想定通り脂質二重層類似構造体を経由して結晶化することが示唆された。そこで平成29年度もこの結晶化ルートによる新規物質開発を継続した。 原料シラン化合物の有機基や無機層を構成する元素の多様化を試み、様々な未知構造物質を得ることに成功した。原料シランの有機基を変化させた場合、単に生成物の有機基が変化するだけでなく、いくつかの場合にシリケート層の結晶構造も変化した。多くの場合6員環と4員環からなるシリケート層が得られる一方で、かさ高い有機基を持つ原料シランからはより大きな8員環を持つシリケート層も得られたことから、有機基の立体障害によりシリケート構造が変化することが示唆された。また、有機シランの代わりに有機ホスホン酸を原料とすることで、アルミノリン酸骨格を持つ未知構造物質を得ることに成功した。物質により特異的に親油的あるいは親水的な表面性状を持つことがわかっており、さらなる構造解析を通じ、結晶構造と物性の関係を明らかにしたい。 材料応用を念頭に、すでに得られている物質の物性評価も進めた。フェニル基を持つKCS-5は熱安定性が高いだけでなく様々な有機溶媒中でもその構造は変化せず安定であった。一方、メチル基を持つKCS-11はアルコール溶媒中で熱処理することにより層間の膨潤が見られ、さらに激しい条件下での処理により層剥離が起こったことが示唆された。分解能の限界によりAFM観察で単層までの剥離が起こっているかは確認できなかったが、生成物の構造・物性の評価は今後も継続して行う。
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