研究実績の概要 |
自己修復材料とは、損傷を温和な条件下で自発的に修復可能な材料のことであり、様々な分野への応用が期待されている。シロキサン(Si-O-Si)系材料は光学材料やコーティング等として広く利用されているが、微小なクラックの発生が材料破壊の原因となるため、その自己修復は重要な課題である。昨年度は、ラメラ構造のシリカ-界面活性剤メソ複合体薄膜における微細なクラックが、高温(50-80度)、高湿度下で修復される現象を見いだした。本年度は、修復メカニズムに関する調査を行い、薄膜の吸湿による膨潤がクラック閉塞の駆動力であることをin-situ X線回折測定によって明らかにした。室温下であっても、約90%RHの高湿エアの吹きつけによって、サブマイクロメートル幅のクラックが1秒以内に閉塞した。湿度が低下してもクラックが再形成されなかったことから、クラックの閉塞と同時に、破断面におけるシロキサン結合の再形成が起こっていると考えられた。このような室温下でのシリカ系材料の修復は本研究が初めての報告である。さらに、修復性のさらなる向上を目的として、シリカ骨格中への有機成分の導入についても検討を行った。1,2-bis(triethoxysilyl)ethaneを第四級アンモニウム型界面活性剤とエタノール溶媒中で混合し、酸性条件下で加水分解し、Si基板上にスピンコートすることでラメラ構造の薄膜を作製した。高湿エア吹きつけ時のd値の変化から、シリカ系と比較して本系では高い膨潤率が示された。この薄膜の自己修復性について調べた結果、上記のシリカ系と比較して幅の広い幅10マイクロメートルを超える裂け目や、めくれた箇所が修復する様子も観察された。以上の結果から、シリカ系よりも修復性の高い自己修復性薄膜の作製に成功した。
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