研究課題/領域番号 |
16K14098
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
富永 洋一 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (30323786)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 固体高分子電解質 / イオン伝導性高分子 / マグネシウム電池 / 二酸化炭素/エポキシド共重合体 / ポリエチレンカーボネート / イオン伝導度 |
研究実績の概要 |
本研究では、軽量かつ安全で成形加工性に優れる高分子材料の特性を活かし、これまでに無い新しいMg電池用電解質を創製するため、CO2/エポキシド共重合体に特有の優れたLiイオン伝導挙動をMg電解質に利用し、10-4 S/cm以上のイオン伝導度かつ0.5以上のMgイオン輸率を達成し、最終的にはフレキシブルな全固体Mg金属二次電池を実現するための電気化学的な基礎知見を得ることを目的としている。本年度は、様々なCO2/エポキシド共重合体およびMg塩を選定し、SPEとして最適な組み合わせを決定することを試みた。共重合体には市販のポリエチレンカーボネート(PEC)を用い、Mg塩にはエーテル系電解液で報告例のある市販のMgTFSA2(マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド)を用いた。共重合体に加える各Mg塩の量は、低濃度から90 wt%程度まで幅広く検討した。イオン伝導度は、既設のインピーダンスアナライザーおよびグローブボックスを用いた複素インピーダンス法によって測定した。ガラス転移温度(Tg)は、既設の示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した。Tgは、イオン伝導度を左右する重要な物性であり、金属塩の種類や濃度によって大きな影響を受ける。Mg塩濃度の増加によってTgが大幅に変化する共重合体に特有の現象を詳細に捉えるため、幅広い温度範囲での測定を試みた。さらに、DSCに併設の熱重量/示差熱量計(TG/DTA)を用いて5%重量減少温度(Td5)を測定した。Td5は、SPEの実用化に際して耐熱性に関わる重要なデータとなるため、Tgの測定と並行して実行する。本年度は、次年度に行う計画であった電気化学測定を前倒しで行った。具体的には、既設の電気化学測定装置を用い、サイクリックボルタモグラム法による電位窓の測定やMgイオンの析出・溶解挙動の観察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PECにMg(TFSA)2を5~50 mol%添加したSPEのイオン伝導度は、室温で10-7 S/cmと低く、50 mol%以上の塩添加は試料が固くなり、物性測定ができなかった。これまでのポリエーテル系電解質と同様に、Mgイオンとポリマー間で形成するイオン-双極子相互作用が強固であり、Tgの大幅な上昇に伴うイオン移動度の低下のためであると考察された。Mg(ClO4)2を用いたSPEの作製および物性評価も行ったが同様の結果となった。ところが、DSC測定の結果からは、室温付近にあるPEC単体のTgよりもSPEでは低下し、50 mol%では-20℃近くを示した。これは、塩濃度の増加とともにTgが低下するLi系電解質と同様の挙動であるが、その低下幅は小さいものであった。TG/DTA測定からは、Mg塩の添加に伴うによるTd5の低下が見られたが、Mg(TFSA)2電解質では30 mol%以上の濃度では再び上昇することも分かった。CV測定の結果は、1回目サイクルのときにMgの析出/溶解に伴う還元/酸化ピークが見られたが、その電流値は非常に小さく、2回目サイクルでは消失した。イオン伝導度10-4 S/cmの達成および安定的なMgレドックスの発現は困難であると考えられたが、PEC-Mg(TFSA)2に僅かなLi塩(LiFSA)の添加により、イオン伝導度の向上およびMgレドックスの改善が見られた。僅か2 wt%のLiFSAの添加によって、PEC-Mg(TFSA)2電解質(40 mol%)のイオン伝導度は約5倍向上し、CV測定の結果から、10倍以上の還元電流密度とおよび1V付近の明瞭な酸化ピークが観察された。この現象は、過去のMg電解液にLiCl等リチウム塩の少量添加によるMgレドックスの向上効果に類似しており、Liの析出/溶解に伴ってMgの析出/溶解も並行して進んでいることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の結果から、現状のPEC-Mg塩からなる電解質では、Mg電池への応用は難しいことが分かったが、第三成分としてLi塩を少量添加することで、Mg電解質としての物性を大きく改善できることが、カーボネート型SPEでは初めて分かった。今後は、基盤研究Bで進めているカーボネートとエチレンオキシドからなる共重合体を本研究に活用し、イオン伝導度のさらなる改善と良好な電気化学的挙動の発現につなげたいと考えている。さらに、これらの検討に続き、次年度は側鎖構造の異なる共重合体の合成にも取り組みたい。Li系電解質に関する過去の研究成果からは、メトキシエチル基のような柔軟で短い側鎖を有する共重合体が最も高いイオン伝導度を示すことが分かっている。本研究のMg系電解質では、これまでのLi系の結果を参考に、共重合体の側鎖構造とイオン伝導性の関係を詳しく整理する。重合触媒は、多くの報告例があるコバルト-サレン触媒を用いる。この触媒は、共重合体の収率が80~90%程度と高く、本研究の遂行には適している。既存の耐圧反応容器を用いて各種共重合体を合成し、所属機関に既設のNMRやGPCによって分子構造や分子量を確認する。得られる各種共重合体は、Mg塩と良溶媒中で混合し、キャスト法によりSPE膜を作製する。
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