研究課題/領域番号 |
16K14102
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
中山 泰生 東京理科大学, 理工学部先端化学科, 講師 (30451751)
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研究分担者 |
細貝 拓也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (90613513)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 半導体デバイス / 巨大表面電位 / 配向分極 / ヘテロエピタキシー / 有機半導体 / 熱活性化遅延蛍光 / ケルビン法 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,永久双極子をもつ有機半導体分子の薄膜内における平均配向度を強制的に制御できる斬新な成膜技術を確立し,分子膜の表裏間に内蔵される電位差を数ボルトのオーダーで増減させることによって,電荷の流れを最適化した高度な有機デバイス設計の実現に挑戦するものである。有機ELなど現実のデバイスに用いられる機能性有機半導体材料の多くは永久双極子をもつ極性分子の凝集体(固体)であり,その分子の光・電気特性が周囲の分子との双極子・双極子相互作用から受ける影響を理解し,その知見に基づいて分子間の相互配向を構成することが可能になれば,デバイスの動作効率の向上につながることが期待される。この観点から,平成29年度から研究分担者らと共同で,いわゆる「第3世代」有機EL材料として期待される熱活性化遅延蛍光(TADF)材料の光応答特性に関する研究に着手し,励起状態の分子内電荷移動状態と周囲の極性分子との相互作用によりTADF発光特性に変化が生じることを実証することに成功した[原著論文1件]。さらに,これらの分子の固体膜が形成される際の材料分子の振舞いを分子レベルで明らかにすることを目的に,有機半導体単結晶基板上における有機分子ヘテロエピタキシャル接合の形成メカニズムの精密分析も進めている。平成29年度の実績として,代表的なp型有機半導体であるペンタセンの単結晶上にエピタキシャル成長するn型分子C60について,分子接合構造の形成過程において界面での分子拡散が支配的であることを実証することに成功した[原著論文1件]。単結晶材料および積層材料それぞれを他の分子材料に換えた場合のエピタキシャル関係・結晶性の変化から,分子の形態・結晶系といった構造要因が接合構造に及ぼす影響を導く研究を実施したほか[原著論文1件],将来のバイオエレクトロニクスへの展開を目指した試行的研究にも着手している[原著論文1件]。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初,平成29年度には「電界配向真空蒸着源の動作特性評価」を計画していた。具体的には,蒸着分子の飛行中に強電界を印加することで分子双極子の平均配向度を変化させられる真空蒸着源について,平成28年度に判明した高電圧印加に伴う絶縁破壊の問題を克服できる新しいコンセプトの真空蒸着源の開発と,真空ケルビンプローブを用いた動作特性評価である。前者については,蒸着物質を加熱するフィラメントと,分子を配向させるための電場を発生させる電極とが物理的に近接していることが絶縁破壊の原因となるが,これらを単に引き離すだけでは配向電極の温度低下から蒸着物質の電極上への析出が生じ,安定した蒸着が行えないことが確認された。後者については,分子膜の表面電位計測のために,米国McAllister社製の超高真空ケルビンプローブシステムを導入する計画であったが,平成28年度から中断されている製品供給が再開されず,導入が先送りになっている。 一方,固体薄膜形成過程における材料分子の振舞いの理解については,平成28年度に引き続き着実な進展がみられている。ペンタセン単結晶上にエピタキシャル成長するC60結晶性被覆層について,成膜温度に依存した結晶性の変化を詳細に追跡することで,形成される結晶サイズがC60分子の拡散長によって制約されていることが示され,分子間接合の形成プロセスに分子拡散が及ぼす効果が明確化するなどの成果が得られている。また,有機ELを構成するTADF分子の発光特性が,周囲の分子の双極子電場による励起電荷移動状態のエネルギー安定化の影響を強く受けることが実証された。これは,本研究の目的とする有機デバイス内部における分子配向制御の重要性を示すものであり,得られた知見は今後の研究推進にあたって一つの方向性を指し示すものである。 以上を総合し,現状における本研究課題の進捗状況は「やや遅れている」と区分される。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,現状において遅れている電界配向真空蒸着源の設計改良と動作特性評価を進める。加熱用フィラメントとの電気的な絶縁の維持と分子配向電極の充分な加熱とを両立することは容易ではない要請であるが,たとえば蒸着材料加熱用に内側にフィラメントを封入した絶縁体製のるつぼを特注する,あるいは熱伝導率の高い絶縁体であるサファイヤを絶縁スペーサとして用いるなどの方策を検討し,課題の解決を図る。また,表面電位計測に必須の超高真空ケルビンプローブシステムについては,新規購入は時間的に困難な状況であるが,同等の装置を有する他機関との共同研究として利用できる見込みが立っており,これを活用して早急な実験実施を図る。 有機半導体薄膜形成過程の分子レベルでの理解と,分子配向の光・電気特性への影響の検証についての研究も,継続的に推進していく。昨年度までの研究により,例えばC60分子とは全く形状・結晶系の異なるパーフルオロペンタセン分子が,ペンタセン単結晶上において共通の結晶軸に沿ってエピタキシャル成長することから,分子間で形成される接合構造が分子種にはよらない普遍的なパラメータによって規定されていることが示唆される。他方,構成分子の内部構造に着目すると,全て炭素からなるC60においては分子間相互作用が純粋に分散力のみによると考えられるのに対し,分子外周に炭素-フッ素結合を有するパーフルオロペンタセンとペンタセンとの接合部では電気四重極子相互作用の寄与を検討する必要がある。一方,極性分子を用いる場合は,四重極相互作用よりさらに強い双極子間の相互作用が支配的になるはずであり,分子の特性によって相互作用の強さに階層構造が存在する。以上を考慮し,分子間の接合構造を決める普遍的な原理を明らかにすることを目標に,今年度は分子間の接合構造を相互作用の種類(強さ)という軸で整理することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた超高真空ケルビンプローブシステムの販売の再開を待っていたため,次年度使用額が生じている。今年度は,主に分子配向蒸着源の改良のために充当するほか,外部との共同研究に要する旅費としての使用を計画している。
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