研究課題/領域番号 |
16K14107
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
樫村 吉晃 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 主任研究員 (90393751)
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研究分担者 |
大嶋 梓 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 機能物質科学研究部, 研究員 (90751719)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イオン感受性電界効果トランジスタ / 人工脂質膜 / 膜タンパク質 / 微小井戸 / ナノバイオ |
研究実績の概要 |
膜タンパク質の機能を解析する手段としては、パッチクランプ法に代表されるようにチャネル電流を直接検出する手法がゴールドスタンダードであるが、信号が極めて小さく(数pA以下)、ウェット系の計測であるためにノイズや再現性の問題など課題が多い。本研究の目的は、人工脂質膜中に膜タンパク質を再構築した系において、膜タンパク質の機能を従来のチャネル電流の直接計測ではなく、細胞サイズに制御された微小井戸に備えられたイオン感受性電界効果トランジスタ(ISFET)構造で検知する新たなプラットフォームをを提供することである。今年度は主に、本提案の根幹をなすISFETを底部に備えた微小井戸構造の設計および作製を以下のように行った。 ISFETはデプレッション型とし、酸化膜(40nm)付きp型シリコン基板上に作製した。イオン注入(イオン種:P)によってソースおよびドレイン電極を形成したが、最適な構造を検討するために、チャネル長を1μm以上のスケールで変化させた構造を複数同一基板上に作製した。この構造の上にTⅰ/SⅰN/SⅰO2(100nm/1000nm/200nm)を成膜した。微細加工によってISFET構造のチャネルの上部に微小井戸を形成し、続いてSiNを選択的エッチングすることによってオーバーハング構造のついた微小井戸を作製した。オーバーハング構造は脂質膜で井戸をシールする際の脂質膜の安定性を大幅に増す効果がある。井戸の径は500nm、1μm、2μm、4μmの4水準とした。 今後は作製したデバイスの基礎的な特性を評価する予定である。まず、脂質膜がない状態において、検出感度と微小井戸径、チャネル長との相関を検討し、最適なデバイス構造に関する知見を得る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、イオン注入後、シリコン酸化膜上に直接SⅰN/SⅰO2(1000nm/200nm)を成膜し、微小井戸形成後、エッチングによりオーバーハング構造とする予定であった。しかしながら、予備検討の段階で、エッチングの際にイオン検出に最も重要なゲート酸化膜までエッチングされてしまうことが判明しプロセスの再検討を行ったため、当初の予定より若干の遅延が生じた。その結果、ゲート酸化膜上にTi(100nm)をストッパー層として追加することにより当初予定していたオーバーハング付き微小井戸構造が作製可能であることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
1、デバイスの基礎特性評価 脂質膜がない状態において、H+、Na+、K+、Ca2+などの生理活性に代表的なイオン種について、様々な濃度におけるデバイス応答特性を調べる。具体的な評価方法としては、ISFETの伝達特性(VG-ID特性)を計測し、ドレイン電流(ID)一定の条件下での閾値電圧の変化をイオンによる界面ポテンシャルの変化分として評価する。この際に、イオン種ごとに濃度と閾値電圧の検量線を作成するのと並行して、ISFETのチャネル長や微小井戸径に対する依存性も検討し、計測条件の最適化を行う。 2、ISFETによる膜タンパク質機能計測原理の確認 微小井戸を人工脂質膜でシールし、α-ヘモリシンなどのモデルチャネルを再構成する。このように作製した微小井戸は細胞と同程度かそれ以下の大きさを持ち、擬似的な細胞環境(人工細胞)とみなすことができる。チャネル機能によるイオン輸送をISFETによって検出することを試み、電気生理的手法によって検出した結果と感度比較を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
NTTアドバンステクノロジ社に発注したマイクロホール付きISFETに関して、NTT厚木研究所内の当該物品作製の為の装置(スパッタ製膜装置およびRIE装置)が高周波設備の法定手続きにより約2か月間使用不可となり、製作が滞り年度内での納品が不可となった為、納期を延伸し過年度納品とした。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年4月21日に物品が納品され、すでに全額使用済みである。
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