今年度は,昨年度に引き続き下記の2点を行った. (1)マルチフィジクス問題に関する数値解析手法の3次元化を目指すとともに,引き続き昨年度の試料に対する仮想EAIの取得を行った.3次元化については定式化までにとどめ,従来の熱伝導・弾性・圧電の物理に加えて新たに電磁波との連成を解くための解析手法を確立し,有限差分法を用いて解析を行った.その結果,一様な温度場,一様な応力場に加えて一様な電磁場のもとでは,欠陥部での位相の変化を増大させる増幅機能の可能性を確認した.この知見は,実体EAIの高分解能化に重要な情報となった. (2)集束イオンビーム加工機(FIB)を用いた欠陥導入方法が効果的であることが昨年判明したので,引き続きその手法を用いたサンプルの製作を実施した.深さの変化とともに,表面と裏面への導入により,そのトポロジーの変化に対する実体EAIを取得した.そして,(1)の手法を用いて欠陥部で散乱されるエネルギー輸送を調査し,欠陥形態に応じたイメージングの元になる位相変化について詳細に検討した.材料として,表面性状の極めてフラットなシリコンウェハーを用い,厚みが500ミクロンから50ミクロンまでのサンプルに対して,裏面に深さの異なる正方形孔群をFIBにより作成し,それらの実体EAIの取得を行ったが,明確な観察像は得られなかった.従来より断面中にある欠陥の同定はすでに取得されているが,底面に開放された孔の観察は絶縁板を介した圧電素子による弾性波の検出が困難であることがわかった.これらの知見から,孔加工を持つウェハーと何ら加工を施さないウェハーの2枚あわせたサンプルの作成を着想し,その実体EAIを取得するに至った.
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