研究課題/領域番号 |
16K14118
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
箕島 弘二 大阪大学, 工学研究科, 教授 (50174107)
|
研究分担者 |
平方 寛之 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (40362454)
近藤 俊之 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70735042)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 材料強度学 / ひずみ測定 / 金属薄膜 |
研究実績の概要 |
破壊はき裂先端等の局所力学場(応力・ひずみ集中場)によってもたらされる。膜厚がnmからサブμmオーダーの金属薄膜(金属ナノ薄膜)は,結晶粒寸法が膜厚と同程度の柱状組織を有し,結晶粒界や双晶境界等の組織に依存した微視的すべり変形や損傷を生じて破壊する。このため,ナノ薄膜の強度を支配する力学を確立するためには,微視構造を考慮した局所力学場を明らかにすることが不可欠である。本研究では,ナノ薄膜の変形・破壊が生じる局所力学場を実測することを目指して,先ずは高分解能電子線後方散乱回折によるひずみ測定(HR-EBSD)法等に着目して,局所ひずみ場の評価法を提案する。本年度の研究実績は以下のとおりである。 1. 小型その場FESEM観察/その場EBSD解析薄膜試料引張試験装置の開発: 引張荷重を負荷した条件下でその場電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM)観察と電子線後方散乱回折(EBSD)解析が可能な小型その場FESEM観察/その場EBSD解析薄膜試料引張試験装置を開発した。本装置は,微小荷重用ロードセルと10 nmオーダーの変位精度を有するピエゾモーターからなる。ナノ薄膜試験片に段階的に荷重を負荷し,一定荷重を精密に負荷する制御プログラムをLabVIEW上で開発した。本装置を小型かつ軽量化したことで,FESEM内でナノ薄膜試料表面の法線方向を電子線照射方向から大きく傾けることが可能となり,自立金属ナノ薄膜試験片に一定荷重を負荷したままでその場FESEM観察/その場EBSD解析が可能になった。 2. 高分解能電子線後方散乱回折条件の検討: 自立単結晶Cuナノ薄膜を対象として,無負荷条件下でHR-EBSDひずみ解析と透過型HR-EBSDひずみ解析に適するHR-EBSDパターンを取得する回折条件を検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小型その場FESEM観察/その場EBSD解析薄膜試料引張試験装置を開発したことで,切欠き底などの応力集中部のその場FESEM観察/その場EBSD解析を実施できる技術基盤を確立し,これを駆使すれば,HR-EBSDひずみ解析,透過型HR-EBSDひずみ解析を含む局所力学場評価手法を検討することが可能となった。(H28年度交付申請書当初計画(1)) また,単結晶ナノ薄膜を用いて,HR-EBSDひずみ解析,透過型HR-EBSDひずみ解析に用いるHR-EBSDパターンが明瞭に取得できる回折条件の抽出を進めている。(H28年度交付申請書当初計画(2)) さらに,厚さ約500 nmの自立多結晶Cuナノ薄膜に集束イオンビーム(FIB)装置を用いて切欠きを加工し,その切欠き底前方を対象としてHR-EBSD解析を実施した結果,段階的に荷重を増加させた各荷重でのHR-EBSDパターンを取得することに成功した。 以上の観点から,本研究は当初の計画通りにおおむね順調に進展していると結論づけられる。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 高分解能電子線後方散乱回折条件の検討: H28年度に引き続いて,単結晶・多結晶ナノ薄膜を用いて,電子線の入射角・加速電圧・照射電流等を変化させてHR-EBSDパターンを取得し,HR-EBSDひずみ解析,透過型HR-EBSDひずみ解析に適した回折条件を検討する。 2. ナノひずみ場測定法の検討: FIB装置を用いて切欠きを加工した金属ナノ薄膜試験片に引張荷重を負荷し,切欠き底前方の局所力学場をHR-EBSDひずみ解析および透過型HR-EBSDひずみ解析によって評価する。併せて,電子ビーム誘起蒸着システムを用いて切欠き底前方にnmオーダーの大きさの標点を多数配置することで,引張荷重負荷時の切欠き底前方の変形場(ひずみ場)をその場FESEM観察によって定量評価する。これらの結果を相互に比較することにより,HR-EBSDひずみ解析・透過型HR-EBSDひずみ解析の測定精度を評価し,併せて各種評価手法の精度・信頼性を総合的に検討して,金属ナノ薄膜に適用する上で,最も適したナノひずみ場測定法を提案する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度交付の直接経費2,400,000円を用いて研究遂行に必要不可欠な物品を計画的に購入した結果,平成28年度交付の直接経費の約1.1 ‰に相当する2,692円の次年度使用額が生じた。この金額では,例えば金属ナノ薄膜を製膜するときの基板に用いるSiウェハやNaCl単結晶を購入することができず,したがって不要物品を購入せずに,平成29年度に交付予定の直接経費500,000円と合算して有効に研究費を使用すべきと判断した。この結果,2,692円の次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度に交付される直接経費500,000円と合算することにより,物品費と出張旅費に有効に使用する計画である。
|