破壊はき裂先端等の局所力学場(応力・ひずみ集中場)によってもたらされる。膜厚がnmからサブμmオーダーの金属薄膜(金属ナノ薄膜)は,結晶粒寸法が膜厚と同程度の柱状組織を有し,結晶粒界や双晶境界等の組織に依存した微視的すべり変形や損傷を生じて破壊する。このため,ナノ薄膜の強度を支配する力学を確立するためには,微視構造を考慮した局所力学場を明らかにすることが不可欠である。本研究では,ナノ薄膜の変形・破壊が生じる局所力学場を実測することを目指して,電子線後方散乱回折によるひずみ測定法(EBSDひずみ解析法)を含む各種の局所ひずみ場評価手法を比較・検討し,適切なナノひずみ場評価法を提案する。研究実績は以下のとおりである。 1. 小型その場FESEM観察/その場EBSD解析薄膜試料引張試験装置の開発: 引張荷重を負荷した条件下で,その場電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM)観察と電子線後方散乱回折(EBSD)解析が可能な小型その場FESEM観察薄膜試料引張試験装置を開発した。 2. 局所ひずみ場測定法の検討: 集束イオンビーム装置を用いて切欠きを加工した自立金属ナノ薄膜試験片に引張荷重を負荷し,切欠き前方の局所ひずみ場をEBSDひずみ解析法を用いて解析した。併せて,電子ビーム誘起堆積法を用いて切欠き前方にnmオーダーの大きさの標点を多数配置し,引張荷重負荷時の切欠き前方の変形状態を標点の変位を実測して求めることにより,局所ひずみ場を解析した。これらを比較した結果,EBSDひずみ解析法では回折パターンに基づくひずみ算出精度に課題があることがわかった。一方,多数の標点を配置して変形場を実測する手法では局所ひずみ場を定量的に評価できることを示唆する結果を得た。
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