研究課題/領域番号 |
16K14124
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小川 修一 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00579203)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 光電子制御プラズマ / ダイヤモンド / 平坦化 / DLC / タウンゼント放電 / CVD |
研究実績の概要 |
ダイヤモンドは高い熱伝導率など優れた特性をもつため、Si基板やGaN基板などの半導体基板と接合することにより排熱応用が期待できる。これを達成するためにはダイヤモンド表面の平坦化が必須のため、本研究では光電子制御プラズマイオン源を用いたダイヤモンド表面の平坦化に挑戦する。本年度は以下の成果を得た。 (1) ホウ素ドープされたp型ダイヤモンド基板の光電子制御プラズマ放電特性を測定した。H2雰囲気中のダイヤモンド基板において、光電子制御プラズマの放電電圧を増加させていくとあるところで放電様式がタウンゼント放電からグロー放電に移行する。グロー放電開始後後に放電電圧を低下させてもタウンゼント放電には移行せず、放電電圧-電流特性にはヒステリシスがあることが確認できた。このヒステリシスはSi基板に比べてダイヤモンド基板の方が大きかった。この原因として、グロー放電によりHラジカルが生成し、ダイヤモンド表面に終端してダイヤモンド表面が負性電子親和力(NEA)に移行したためと考えられる。これによりダイヤモンド基板から効率的に電子が供給され、より低い電圧でもグロー放電が維持されたと考えられる。この結果より、ダイヤモンド表面における光電子制御プラズマでは放電維持のためH2ガスの供給が有用であることがわかった。 (2) ダイヤモンド表面は研磨により数百nmの溝が存在する。平坦化実験では粗さを制御した基板が必要なため、ダイヤモンドよりも平坦な基板としてSi基板上にCVD成長させたDLCに着目した。ダイヤモンドと比較するため、sp3リッチなDLC成膜条件を探索した。原料ガスのメタン濃度を高くすることでsp3比は増加したが、その一方で含有水素量も増加したため、表面の平坦性は悪くなった。また、基板温度を増加させると水素含有量も減少するが、今度はsp2比が増加することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画通り、ダイヤモンド表面の光電子制御プラズマ放電特性を調べ、ダイヤモンド表面における光電子制御プラズマ生成ではH2ガスの供給が有用であることを見出した。また、イオンエネルギー測定のための分析器も取り付けが完了し、ソフトウェアの開発に進むことができた。それに加え、ダイヤモンド表面と比較するためのsp3リッチDLCの成膜条件を明らかにすることができた。以上のように、当初の計画通り研究が進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえ、平成29年度の目標を以下の通り設定する。 (1)光電子制御プラズマイオン源を用いたダイヤモンド表面の平坦化実験:平成28年度に得られたダイヤモンド表面上の光電子制御プラズマ放電特性をもとに、ダイヤモンド表面の平坦化実験を行う。 (2)光電子制御プラズマにより生成されたイオンのエネルギー分析;平坦化にはイオンエネルギーが重要な役割を果たすと考えられるため、これまでに整備したイオンエネルギー分析器の稼働に向けた準備を進める。平成28年度の研究においてイオンエネルギー分析器のハードウェアは完成しているため、平成29年度は分析器制御のためのソフトウェアの開発、および測定データから実際にエネルギーを求めるための解析プログラムの開発を進めていく (3)比較用DLC試料の合成:平坦化実験の比較試料として利用するDLCの合成も並行して進める。特に酸素や窒素をドープしたDLCは硬さや表面粗さを制御することができるため、光電子制御プラズマイオン源を用いた平坦化実験に必要な試料として利用できる。また、平坦化したDLCは低摩擦材料としての応用も期待できるため、合成したDLCは共同研究先に提供し、摩擦係数や摩耗特性などの機械特性評価も行う。 (4)グラファイト表面平坦化への挑戦:グラファイト表面に高エネルギーイオンを照射するとsp3結合が形成されてしまうため、グラファイト表面の平坦化についてイオンアシスト表面拡散研磨が有力と考えられる。そこでグラファイト表面の平坦化にも挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文投稿料として予算を確保していたが、平成28年度中に出版できなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の助成金と合わせて、平成29年度に出版される論文の投稿料として使用する。
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