研究課題/領域番号 |
16K14126
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
池野 順一 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10184441)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | SiC / 潜傷 / 潜傷探査 / 研磨変質層 / パルスレーザ / 熱応力 / 光解離 / 半導体ウエハ |
研究実績の概要 |
半導体基板はÅレベルの鏡面加工と同時に、加工変質層のない無擾乱な高品位表面が求められている。とくに残留応力が鏡面下にあれば後工程や経年変化で「潜傷」が表面に発生し不良となる。現在この潜傷を検出するために時間と熟練、費用がかかり環境負荷の課題も抱えている。もっと高速でクリーン、安価で容易な潜傷探査法が開発できれば有益である。本研究ではこれまでの知見を基に新潜傷探査法を提案し、その有効性を実証、進展させることを目的としている。初年度、シリコンの潜傷探査への有効性を実証できた。今年度はその成果をもとに次の研究を行った。SiCは耐薬品性に優れ、ダイヤモンドの次に硬いSiCは次世代半導体基板として優れた特性を持っているが、潜傷探査はシリコン以上に困難である。そこでレーザ選定のための基礎実験を行った。まず可視域波長のパルスレーザでシリコン同様に表面に引っ張り応力を発生させる実験を行ったが、SiCでは効果がみられなかった。そこで光解離による応力解放という考え方に切り替えて、ここでは266nm波長のUVパルスレーザを用いた。その結果、小出力では表面に酸化膜のみが形成されるだけで潜傷は出現しなかった。もう少し出力を大きくすると、アブレーション(除去加工)が生じ表面が大きく破壊されてしまった。ただしよく観察した結果、加工痕のそこには潜傷らしきものがわずかに観察できることがわかった。そこで、SiCでの潜傷探査では光解離と熱応力の相互作用が有効であると考え、355nm波長のパルスUVレーザを用いることにした。その結果、SiC鏡面を破壊することなく前加工面であるダイヤモンドの摩擦痕だけがクラックとして出現させることに成功した。レーザ選定をもとに探査装置を再構築するため、SiCに併せた光学系を交換し探査実験実験を繰り返し行ってデータの蓄積とメカニズムの解明を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
半導体基板はÅレベルの鏡面加工と同時に、加工変質層のない無擾乱な高品位表面が求められている。とくに残留応力が鏡面下にあれば後工程や経年変化で「潜傷」が表面に発生し不良となる。現在この潜傷を検出するために時間と熟練、費用がかかり環境負荷の課題も抱えている。もっと高速でクリーン、安価で容易な潜傷探査法が開発できれば有益である。本研究ではこれまでの知見を基に新潜傷探査法を提案し、その有効性を実証、進展させることを目的としている。初年度、シリコンの潜傷探査への有効性を実証できた。今年度はその成果をもとに以下の研究を行った。 1)SiC試料の潜傷探査用レーザの選定:耐薬品性に優れ、ダイヤモンドの次に硬いSiCは次世代半導体基板として優れた特性を持っているが、潜傷探査はシリコン以上に困難である。そこで基礎実験ではレーザの選定を行った。 2)探査基礎実験:可視域波長のパルスレーザでシリコン同様引っ張り応力を発生させる実験を行ったが、SiCでは破壊強度が大きく探査はできなかった。そこで光解離による応力解放を試みた。ここでは266nm波長のUVレーザを用いた。小出力では表面に酸化膜のみが形成され、潜傷は出現せず、大出力ではアブレーション(除去加工)が生じ大規模に表面が破壊された。ただしアブレーション痕に潜傷らしきものがわずかに観察できた。 3)探査本実験:上記結果からSiCでの潜傷探査では光解離と熱応力の相互作用が有効であることがわかった。そこで、アプレーションによる表面破壊を避け潜傷のみを出現させるため355nm波長のパルスUVレーザを用いることにした。その結果、SiC鏡面から前加工面であるダイヤモンドの摩擦痕だけを出現させることに成功した。 4)探査装置の再構築:レーザ発振器が決まったため、SiCに併せたレンズとミラーを準備し、探査実験装置を再構築した。 5)国内学会にて成果報告を行った。
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今後の研究の推進方策 |
半導体のうち、シリコンウエハとSiCウエハの潜傷探査がレーザにより簡潔に可能となることを見いだした。分析コストは2桁安価で環境負荷もなく熟練が不要となった。探査時間も試料にレーザを数秒照射するだけなので時間短縮は計り知れない。そこで、より確実な技術に育成するために解析を進め、実験装置を最適化し探査法として確率を目指すことにする。さらに、レンズやミラーでも潜傷探査は重要である。レーザを用いる光学系ではスーパーミラーが求められており、潜傷で光学素子が破壊に至る事故につながる危険性がある。高精細なカメラでも性能劣化が危惧される。この潜傷探査技術を光学ガラスや石英ガラスに適用することを試みる予定である。その上で実験データの整理と解析を進め、メカニズムを検証して研究成果を国内外の学会で積極的に発表するとともに、次世代に向けた科学の啓蒙に務める。具体的にはデータ整理と定量評価ではSi、SiC、光学ガラスの実験データを整理し、これらを基に特性を定量的に評価し、新潜傷探査法(高速、クリーン、安価)としての有効性を明確にする。ただしデータ整理の段階で確かめるべき事項が見つかった場合は補完実験を行っていく。次に潜傷顕在化メカニズムの理論解析として、熱応力、非解離の影響度合いを明らかにする。これにより潜傷探査原理の検証ができるものと考えており、高精度で信頼性の高い潜傷探査法として育成できると期待している。 研究成果発表と科学啓蒙活動では国内外の学会(国際砥粒加工学会、精密工学会)で研究成果を発表する。また、展示会(SEMICON JAPAN」と「Laser Tech」)で研究成果を積極的に紹介する。さらに日本学術振興会主催の「ひらめきときめきサイエンス」に応募し、20名程度の高校生に対して本研究成果を基に作成した教育プログラムを行って科学の啓蒙に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
翌年度の研究としては、データ整理と評価を通してメカニズムの理論解明を進めて必要に応じて補完実験を行い、研究成果発表と科学啓発活動を行う予定である。予算の使用については研究発表とデータ整理に重点を置いた計画となっている。最終年度を迎えるに当たり、メカニズム解明のための補完実験がまだ必要となるため、これに338,765円を当てることを計画している。予算の執行は最終年度ですべて終える予定である。
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