研究課題/領域番号 |
16K14131
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
岩田 太 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (30262794)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 走査型イオン伝導顕微鏡 / ナノピペット / ナノ加工 / 電気泳動堆積 / ナノ微粒子 |
研究実績の概要 |
本研究は液中環境で動作可能な走査型イオン伝導顕微鏡のナノピペットプローブ(先端にサブミクロン以下の微細開口を有するキャピラリーガラス管)を用いてナノスケールの微粒子や材料を3次元的に基板上に堆積させる新奇な微細立体造形法を開発することである.複数開口を有するナノピペットを用いることで,イオン電流検出によるピペット先端と基板間の位置決め・距離制御を行いながら,ピペットに充填したコロイド状ナノ微粒子の電気泳動堆積による立体造形を実現する.液中環境での動作により,ピペット先端開口での乾燥や詰まりがない再現性の高い加工を可能にする.さらに形成した立体構造物における機械的物性を評価することで,マイクロマシンやMEMSなど機能性微細デバイス化への応用に向けての知見を得る.
28年度はナノピペットを用いてAuナノ微粒子のコロイド溶液を用いた堆積を実現した.また,ナノ微粒子を3次元に堆積させる装置システムの構築の着手をした.実験では一旦基板に堆積したナノ微粒子は液中環境においても再脱離や分散することなく凝集した堆積状態で安定に維持できることが分かった. ナノピペット先端を破損することなく基板表面近傍に位置決めする手法として液中環境で動作可能な走査型プローブ顕微鏡であるSICMの機能を複合化する開発に取り組んだ.複数開口のキャピラリー管(シータ管)を熱引きして作製し,複数の先端開口を有するナノピペットをプローブとして用いることで位置決めと吐出加工の多機能化を可能にした.すなわち一つの開口でイオン電流を検出することで,SICM機能によるピペット先端と基板間距離を超精密に位置決めし,もう一つの開口に充填したナノ微粒子を電気泳動駆動により吐出できる機能を実現した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
28年度はナノ微粒子を3次元に堆積させる装置システムの構築とAuナノ微粒子のコロイド溶液を用いた堆積を実現することを計画して取り組んだ.
この計画に対して,まず,直径サブμm以下の微小先端開口を有するナノピペットはキャピラリー管を熱引きして製作することを確立した.このナノピペット内にナノ微粒子コロイド溶液を充填した状態で基板表面上にピペット先端を近接させ,ピペットに挿入した電極に電圧印加することで,基板表面上に電気泳動堆積させることにも成功した.また,3次元立体造形を作成するためのシステムとしてナノピペット先端を基板表面から上方に引き上げながら堆積する圧電素子駆動回路および圧電素子位置決めステージを組み込んだ装置も構築している. また,ナノピペット先端を破損することなく基板表面近傍に位置決めするための走査型プローブ顕微鏡であるSICM の機能の複合化も着手した. これらのナノピペットを用いた液中環境での堆積加工の実現による実験と装置製作の着手により,28年度の計画はおおむね予定通り進んだと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
装置の完成とそれを用いた立体構造物の物性・特性評価 まず,堆積装置を完成させ,堆積加工に関する条件出しを行う.その後,本手法を用いて造形した微細立体構造体に対して,その物性評価を行い,MEMSや電子デバイスへの応用を検討する必要がある. 造形した立体構造物の実用性を考慮し,まずは機械的物性評価を行う.具体的にはこれまでに研究室内で構築した電子顕微鏡の真空試料室内で動作するナノマニピュレータを用いてAFMマイクロカンチレバーにて直接ピラーに接触し,たわみ変形させることで弾性や硬さなど,機械物性評価を行い,MEMS及び微細デバイスへの応用を検討する.本研究において局所的な電気泳動堆積法で形成された立体造形物はナノ微粒子の凝集体であるため,物性はバルクの値と異なることが予測される.よってアニーリング熱処理などを堆積後に施すことでバルク状態に近づける後処理プロセスも検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本手法による複数開口を有するナノピペットを用いた走査型イオン伝導顕微鏡の開発に関して,昨年装置開発を行うにあたり,予定していた物品に関しては,一部自作することで費用を低くおさえられた.しかしながら堆積実験やその評価を行う上で装置をさらに改善していく必要があることが明らかになり,28年度は装置の開発仕様の検討に時間を費やした.29年度は装置完成に向けて物品購入と堆積実験やその評価を主に行う必要があり,2年目に有効に使用することで実験を効率よくすすめることができる.
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次年度使用額の使用計画 |
装置の改善と完成のために電子部品や光学部品,計測機器などの物品を購入する.堆積実験のためのコロイドナノ微粒子などの試薬を購入する.その他,評価のために学内の共同利用機器センターで分析機器の使用料として使用する.また,成果をまとめて国内外での発表や論文投稿費用等に使用する.
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